さらば… イスカンダル 3
「お疲れ様。」
二人は最寄駅で夕食を買うとそのまま地下都市へつながるエレベーターに乗り込んだ。白色彗星の攻撃の時に避難した人がまだ住んでいたので地下都市の住宅は所々灯りが見える。
「いただきます。」
静かだった。いつも誰かしら傍にいて賑やかだったヤマトの艦内と違って二人の食べる音しかしない。
「静かね…」
ユキが一言つぶやいた。
「そうだね…ユキの部屋で食事をした時ぐらいだったね、静かだったの。」(進)
「えぇ…」(ユキ)
今回も辛い戦いだった。白色彗星との戦いとはまた違う心の拠所をなくしてしまった戦いだった。
「辛い分、強くならないといけないな、俺たち…」
進が自分に言い聞かせてるようにつぶやいた。
「そうね…なんだか私たちの知らない事が多すぎて…だけど知れば知るほど
宇宙が怖く感じてしまうわ。少し前まで宇宙に同じ生命体なんているか
どうかわからない、なんて言われていたのに…こんな数年でいろんな
ヒトと同じ形をした地球外生命体と出逢って…戦って…残るのは悲しみと
後悔ばかり…だけどそれを乗り越えなかったら私たちはここに存在して
いないんですものね…。」
ユキがため息をつきながらお箸をおいた。
「疲れちゃった…先にシャワー浴びていいかしら?」(ユキ)
「いいよ。」
いつもはどちらかが食べ終わるまで絶対席を立ったりしないが…ユキは自分の食べた食事を隅に寄せると“ごめんなさい”と言いながらバッグの中から着替えを取りシャワー室へ向かった。
「ほとんど手を付けてないじゃないか。痩せちゃうぞ?」
進はユキが残すだろうと思って少なめに買ったのでユキの分を食べ始めた。しばらくするとシャワーの音が聞こえてくる。ユキは疲れると湯船につかるが地下都市は最近までエアーシャワーだったからバスタブがなくお湯につかる事は出来なかった。
「きっと早く上がって来るな。」
進はおかずを一品口に入れて立ち上がるとベッドを直しに寝室へ向かった。
「ふぅ…」
15分ほどしてユキが濡れた髪をタオルで巻いたままリビングに戻って来た。
「あ…」
テーブルの上の食材がきれいに片付いていたのにユキが気付いた。
「食べちゃった。もし、食べなかったらもったいないと思って。」(進)
「ううん、捨てちゃうのもったいないな、って思ってたから…食べ残しで
ごめんなさい、って…思ったの。」(ユキ)
一度配給制だった食材は遊星爆弾が落ちてくる前と同じように普通に買えるようになっていたがムダを省くという事は普通の事になっていた。
「髪乾かして横になったら?すぐに眠れるようにしたから…」
進がテレビを観ながら言うと
「…ありがとう。何もしないでごめんなさい。古代くんだって疲れてるのに。」
ユキが申し訳なさそうに言うと
「全然、ユキに比べたら…まぁヤマトの中でいつ呼ばれてもいいように
してただろ?熟睡できなかったんじゃないか?疲れが取れたらゆっくり
どこかへ行こう。」(進)
「うん…」
ユキは素直に頷くとドライヤーをかけにリビングを出た
作品名:さらば… イスカンダル 3 作家名:kei