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永遠に…の傷跡 3

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お風呂を済ませ濡れた髪をタオルで包みながらリビングへ向かうとすでに藤堂の姿はなかった。台所にいた夫人が気付きユキのもとへ来た。

  「どう?気持ち良かったでしょ?軍じゃシャワーしかないって主人が言ってたから
   ゆっくり入らせてあげたかったの。やっぱりゆったり入ると疲れもとれるでしょう?
   おなかはまだ空かないかしら?ホットミルク作るから座って。ドライヤーで先に
   髪の毛乾かしてらっしゃいな。洗面所に置いてあるはずよ。
   あなたはあの子より背が高くてらっしゃるのね。ちょっと丈がつんつるてんだけど
   まぁどこか出掛けるわけじゃないからいいわよね。」

そう言われてユキは

  「何から何まですみません。ちょっとドライヤーお借りします。」

もう一度洗面所へ戻り髪を乾かした。


リビングに戻ると薄いレースのカーテンの間から手入れが行きとどいた庭がよく見えた。
夫人はホットミルクと砂糖をリビングの窓にに面してるソファーのサイドテーブルに用意してくれた。

  「もう、飲みごろに冷めてると思うわ。牛乳は大丈夫かしら。」

ユキは大丈夫です、と言いながらソファーに座り何となく庭を見た。

  「あの日…突然黒尽くめの男たちがこの家に入ってきて家じゅうの引き出しを
   荒らして…きっと言葉が分からなかったんでしょうね。雑誌とか私の料理のノート
   とかすべて紙という媒体、チップなどすべて持っていかれてしまったわ。もちろん
   端末も。私はたまたま外出していて奇襲攻撃の難も逃れたけれどなんとかトウキョウ
   に戻ってきたのに今度は家に入れなくてしばらく庭の片隅で静かにしていたわ。
   しばらくしてすべてが終わったらしく引き上げて行った。それでもすぐ部屋に入るのは
   怖くて…泣きそうになっていたらこの庭の花が…世界が…すべてが終わりそうな
   世の中なのに花は変わらず咲くのよ。それを見ていたら涙が出てきたわ。
   その時思ったの。一般の私たちがあきらめてはいけないって。頑張って生きなくては
   ってそう思ったの。一生懸命世話して来たから…子供たちが巣立って行った今は
   この庭の花が私の子供のようだったのね。」

ユキは自分の部屋がどうなってるか気になったが夫人の話を聞き続けた

  「さすがに当日ここにいるのはキケンと思って少し先に住んでいる息子夫婦の元へ
   避難したの。で3日ほどしてから息子と一緒にここへ戻ってきて家の中に入ったわ
   もう自分の家とは思えないくらいひどく荒らされていて…あまりのひどさに涙も
   出てこなかったわ。私たちが来たのを近所の人が見て片付けを手伝ってくれたの。
   自分の所だって大変なのに申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちと複雑だったわ。
   近所の電気関係をしてる人が念のため、と言って盗聴器など仕掛けられてないか
   異常な電波を調べる機械で家じゅう見てくれて…ここには何もないと思ったらしく
   なにも出てこなかったわ。」

ユキはミルクに少し砂糖を入れて一口飲んだ

  「甘い…」
  「疲れているときに私もよく飲むの。薬使わなくても眠れるはずよ。ごめんなさいね、
   つらい時にこんな話してしまって…。」
  「いえ…私たちの力不足で…」

その時風がリビングのカーテンを勢いよく揺らした

  「バラのいい香りが…」
  「ええ、小さいけれどとてもいい香りのバラが咲くの。ここでぼーっとしてる時間が
   私は大好きなのよ。」
作品名:永遠に…の傷跡 3 作家名:kei