Wizard//Magica Infinity −8−
………
見滝ヶ原から面影村まで、高速道路を使ったとしても移動で最低1日は要する。さらに、俺自身も面影村までの正確なルートは知らない。大体の方角までしか知らないのだ。
それに、俺達は高速道路から降りて寝床を探して一泊しなくてはいけない。ここからが本当に大変だった。バイクなのでナビは装備されてないし、携帯の地図を見ようとしても、お互いの携帯は残念ながら動作しない。結局、最寄りの街で寝床を探し、面影村までの正確な地図を探しださないといけない訳だった。
俺達は高速を降り、見滝ヶ原市程ではないがそこそこ大きい街へと入り、まずコンビニへと立ち寄った。
「地図…あった。うん、これだけ詳細に描かれていたら大丈夫だな」
「ねぇ見てハルト!…おほん、『イラッシャイマセー、オベントウアタタメマスカ?』」
「レジで何やってるの?さやかちゃん」
「店員さんのモノマネ!どう?似合ってる!?」
「うん…なんか、バカっぽい」
その他、今日の夕食ということで弁当やお菓子、飲み物をカゴの中に入れ、レジで店員のモノマネをしているさやかちゃんへと差し出した。
「唐揚げ弁当が1点、鮭弁当が一点、おにぎり3点、お茶が2点、…合計5万円になります!お弁当暖めましょうか?」
「いやいや、計算できないのかよ。絶対ちがうでしょ」
「大変失礼しましたー。お弁当暖めましょうか?」
「というかどれだけ弁当暖めたいのさ!」
その後、コンビニを後にした俺と さやかちゃんは次の目的として寝床を探すことにした。
そして今頃気がついたが、人がいないくせに何故か街頭は灯っていた。もうなんでもありだな。
「ハルト~重いよ」
「じゃあバイク引く?」
「そっちの方が重い!」
「じゃあ我慢して」
さやかちゃん は両手にパンパンの買い物袋を掲げ、俺はバイクを引きながらホテルを探した。よく考えたら先にホテルを探して買い出しに行ったほうが良いと思った。まぁ今更遅いが。
「せっかく誰もいないんだからさぁ~高級そうなホテルに泊まろうよ」
「それも悪くないね。お、あれなんて高そうなホテルなんじゃない?」
俺達の目の前には光輝く高級そうなホテルが建っている。
これ以上探しても面倒だし俺は中へと入ろうとした。
「いや、ちょっと待ちなさい」
「ん?どうしたの さやかちゃん」
俺がホテルの中に入ろうとした瞬間に さやかちゃんは静止した。一体どうしたのだろうか。
「ハルト、よく見て」
「何?もしかしてあまりの高そうなホテルにおじけついちゃったの?」
「いや、違うわよ…だって、ここ…ホテルはホテルでも…」
「え?…あ…」
ちゃんと確認するべきだった。
だって、俺が入ろうとしていたのは…ホテルはホテルでも…。
「そうだね。もうちょっと歩いて、別なところ探そう」
「うん…」
・・・
結局、俺達はそれから何十分か歩いて、ようやく寝床となるホテルを発見した。もちろんさやかちゃんの希望通り、学生にとっては絶対に泊まれないであろう高級なホテルの一番良い部屋に。
「すごいな~マッサージチェアにラウンジには風呂…うわ、これよく見たらジャグジー付きじゃない。さすが最高級とだけはあるな」
「よし、今日はゆっくり寝て、明日に備えないと!じゃ、ハルトは出てって!」
「え、なんで?」
「いや…あんたもしかして私と一緒に寝るつもりしてたの?」
「あ、そうか。じゃあ俺は隣の部屋で寝るから。また明日」
「うん、また明日ね!さぁてシャワー浴びよ~…」
俺は さやかちゃんの部屋を出てすぐ隣の部屋に入る。さやかちゃんの部屋は洋風なのに対し俺の部屋は和風だった。
軽くシャワーを浴びた後、俺は押入れから布団を取り出し、綺麗に引いて浴衣に着替えた。
特にすることも無かったので、俺はそのまま電気を消して横になった。
「………。」
が、寝ようと思ってもなかなか寝付けない。
「…はぁ、明日も長時間移動しなきゃいけないのに…早く寝ないと…」
それから何分経っただろうか、一向に睡魔が押し寄せない。
例えるなら友達の家に泊まりに行って、無意味に興奮してしまって寝付けない…あれだ。
「…仕方ない、確か1階にDVDコーナーあったよな。気晴らしにDVDでも見てから寝るか…」
それから俺は浴衣のままエレベーターで1階まで降りてカウンターの真向かいにあるDVDコーナーに立ち寄った。ジャンルは様々でホラー系からコメディ系、邦画や洋画も完備されている。
「あんまり怖いのは嫌だな…気軽に見れるのは……あ」
その中で、俺はとあるタイトルを見て足を止めてしまった。
ラベルの欄に書いてあった名前…それは…
「『仮面ライダー』…仮面ライダーオーズ」
・・・
−「手が届くのに手を伸ばさなかったら一生後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ!!」−
「仮面…ライダー…か」
俺は仮面ライダーシリーズの一つ、『仮面ライダーオーズ』という作品を何本か持ち出し部屋で見続けていた。本当は1話から最終話まで見たかったが、流石にそんな余裕はないので、ところどころをよりぬきで視聴する。
「…かっこいいな」
左手の中指の赤いウィザードリングを見つめる。
そういえば、最初…見滝ヶ原で まどかちゃんに俺は仮面ライダーだ、と言われたのを思い出した。
果たして…俺は本当に仮面ライダーなのだろうか?
−「ライダーは助け合いでしょ!」−
−「ふんっ!こいつ…馬鹿だ。だが、使える!」−
「ははっ…俺、ここまでまっすぐでもないし、ヒーローって柄じゃないよ」
テレビ越しに映ったヒーローはとてもかっこよかった。
常に真っ直ぐ、常に悪を許さない。
そして、人々の希望と明日を守る正義の仮面ライダー。
まどかちゃんから見た俺って、こんな感じに見えたのだろうか。
けど俺は、まだ胸を張って仮面ライダーだと断言できない。
俺には、決定的に何かが足りないからだ。
それは…きっと俺があの時あいつに言われた『答え』を導いてないからだ。
魔法少女達の絶望を振り払い希望を守ってきた…だけど、それは俺の独自の考えであって、結局は違った。認めたくはないけど俺自身に言われたのだから間違いない。
だったら今まで俺は一体何を守ってきたのだろうか。
そうか…これが答えにたどり着く為のヒントなんだ。
その答えを見つけ出せない限り、俺は仮面ライダーになることはできない。
ただの…魔法使い−ウィザード−だ。
−「アンク…お前がやれって言うのなら…お前がやりたいことなんだよな……」−
「ふあぁ…次で最終話だけど…眠くなってきたし止めておこう」
俺は名残惜しくテレビを消して再び寝床に着いた。
今度は先程と違って瞼が重く、今にも寝てしまいそうだ。
そのまま、瞼を閉じ夢の中へと入っていった−−−。
「しっつれ~い!入るよ~」
「…っ!!…なに…」
筈だった。
「なぁさやかちゃん。俺は今、すっごく寝そうだったんだ。なのに突然部屋に入ってきて俺の布団に入るとか…どういう事?」
「いやさぁ~なんか名残惜しくてさ!やっぱ一緒に寝ようよ!」
「なんだよ…自分から拒絶しておいて」
作品名:Wizard//Magica Infinity −8− 作家名:a-o-w