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Wizard//Magica Infinity −8−

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………


ホテルから出発して何時間か経過した。朝一で出発したのに既に太陽は自分の真上、時刻は丁度昼辺りだ。
俺達は高速を降り、一般道を走る。景色は最初とは一変して周りは山やら木々に囲まれている。次第に道路は舗装が無くなり、砂利道へと変化していった。

「ガタガタだから気を付けてね」
「うん…いよいよ近づいているみたいね」
「あぁ…」

俺は、遠い昔…この道を歩いたことがある。
つまり、もうすぐで面影村に到着するということだ。
よく見たら周りの景色に見覚えがあった。

面影村…いや、正確には面影村があった土地。
あの大火災以来、面影村は復興の目処が立たず、現在もなにも無い焼け野原になっているはずだ。もちろん、俺の過ごした店、市役所、学校等の施設は全て燃えて無くなり、その残骸は既に撤去されている。

「あっ…」
「どうしたの?ハルト」
「あれ…村の門だ…あそこを抜けると…」

バイクのスピードを緩めながら面影村の門を抜ける…すると−−−。


「………。」
「着いたわね」
「面影村…か」

予想通りと言ったところか…。そこには、なにも無かった。
かつて、住居が建てられていた後が残っており、田畑は草で溢れて見分けるのが難しい。
俺達はバイクを降りて歩くことにした。

「ここにね…俺が住んでいた輪島玩具店っていう店があったんだ」
「うん」

指をさせた先には俺が住んでいた店だとさやかちゃんに説明する。
だけど、そこにはなにもない。初見の人にはよくわからないだろう。

そこから更に奥に歩いて色々と説明してあげた。

「ここ、学校があったんだ。…なんもないからグラウンドと一体化しているけど」
「本当に、全部燃えちゃったのね」

周りを見ていると、次第に昔の記憶が込み上げてくる。
駄目だ…やはり俺は過去に囚われている。

俺の目に、…過去の光景が映し出される。


−おい俊平!はやくこいよ!−
−ま、待ってください、ハルト先輩!足早いですよ~!−

「…っ…」
「ハルト?」
「だ、大丈夫。…ふぅ…」

受け入れられない過去。

未だに俺は目を背けたままだ。

でも…どうすれば良い?

俺は…過去を無くしたくない。

どうすれば…未来に進むことができるんだ?




「…さぁて、いよいよさやかちゃんの出番ね」
「えっ…?」
「ハルト…私がこの世界に現れた理由…教えてなかったわよね」


さやかちゃんの表情が一変した。
それは、昨日までのあの天真爛漫なものではない。

とても真っ直ぐな…全てを悟っているように見えた。


「私ね…実はまだ目覚めてないのよ…いや、正確には目覚めることはなかったんだよ」

「っ!ちょっと…何言って…」

「ハルト…あんたは知らないけど…あれから ほむら は何度も何度も時間を繰り返してきたの…正直、こうしてハルトと出会ったのって…結構久しぶりなのよ」
「さやか…ちゃん?」
「そして…とある時間軸。何度も繰り返して積み重なった因果を得た まどか は、インキュベーターにとある願いを施したの」
「まどかちゃんが?一体何を…」

「まどか はこう願った…」



−全ての魔女を、生まれる前にこの世から消し去りたい−



「っ!!?馬鹿なっ…それじゃあまるで…」

「そう、まさに…ハルトが以前までしてきたことを…あの子が全て引き継いだの…無意識中にね」

魔女を生まれる前に消し去る…。
それは、時代を超えた願い…いや、そんなやわなレベルじゃない。
この世界のルールを根本的に変えてしまったと言うのか…。

つまり…魔法少女−まどか−が魔法少女達の絶望を吸収したということだ。
あの小さな身体の中に。
この世界の何千何万もの魔法少女の絶望を彼女の一つの身体の中に。

俺ができなかったことをやってしまったんだ…。


「待て…じゃ、じゃあ…さやかちゃん…君は…」

「うん。私が魔女として生まれる前にね…消滅しちゃったんだ。だから現実世界では私はもういない。そういうルールになっちゃったんだ」
「嘘…だろ…」


「そしてね…この世界は まどか がハルトの為に作った世界。まどかはね…ワルプルギスの夜を受け入れたの。そして…ハルトを導かせる為、私がこの世界で生まれた」

「俺を?」

「そう。ハルトを…過去の因果から解き放ち、未来を与えるため…まどかが願って生み出した世界」


過去の因果から俺を解き放ち…未来に歩ませるため作られた世界。



−ドクン…−





−「あなたの願いは何?」−






「はっ…」


一瞬、何かを思い出した。


そうだ…あの時。


暗い闇の中で差し伸べられた一つの光。


俺は、問われたんだ。



そして俺は願った。





やり直したい、と。





絶望や過去に囚われた自分を捨て…新たな自分として生まれ変わりたい、と。







「ハルト、予言日記を覚えている?」
「予言日記…!何故それを…」
「まどか から教えてもらったの!あの子は今じゃ神みたいな存在なんだから、さてと。どこに行けばそれを手に入れられるの?」
「あ、あぁ…ダムへと続く道をひたすら登って…その湖畔にある一本の木のふもと…だったかな…でもなんで予言日記を…」

「その日記に、ハルトを生まれ変わらせる『答え』がある…って まどか が言ってるわ!」
「まどかちゃんが?」
「善は急げよ!早く行こう!」


俺とさやかちゃんは学校跡の裏にある山道へと入り、険しい道のりを進んでいった。
ところどころ、今だに焼け残りの跡が見られるが、進むに連れて元の自然の風景が広がっていく。どうやらここまで火災は届いていなかったようだ。
「ハルト~まだ~?」
「もうちょっと…だと思ったんだけど」
少しずつだが昔の記憶が蘇ってくる。それと同時に心の中に過去への未練も現れる。
すると、どこか遠くから水の流れる音が聞こえてきた。

「ハルト!」
「あぁ、もう少しだ」

二度と…そう、二度と訪れることは無いと思っていた場所。

俺の過去が眠っている場所。

そうだ…俺は、あの時から俺の時間は止まっているんだ。

きっと、予言日記を開いた瞬間、俺の時間が再び動き出す。

「っ…」
その瞬間、俺の足が止まってしまった。

駄目だ…怖い…怖い、怖い!
全てが、なにもかもが変わってしまいそうで恐怖が湧いてきた。
これ以上、俺は…もう…

「大丈夫よ」
「…っ!」
「私が、ついているから!」

振り向くと、さやかちゃんが、にかっと笑っていた。
そうだ、あの時決めたじゃないか。
答えを見つけ出すんだって。

「ありがとう、さやかちゃん」
「もう、大丈夫?」
「うん」

俺は再び歩き出す。

木々を抜けると、辺り一面に美しい光景が広がった。

それは、過去とは何も変わらない。そう、俺みたいに。
ここだけ、時間が止まっているように感じた。

「ついたわね」
「あぁ」

かつて、探検部の皆で訪れたダムだ。
俺達はそこから湖畔にある一本の木のもとへと向かう。

「ここに、埋まっているはずだ」

かつて、俺達が予言日記を埋めた場所を見つめる。
いよいよ、その時だ。

俺はウィザーソードガンを巧みに使い掘り返していく。
作品名:Wizard//Magica Infinity −8− 作家名:a-o-w