祭りの前
3.
時刻は午後十一時五十分を過ぎたところだ。
ダイダロスブリッジでは、六台のD-ホイールが横一列に広がって勝手気ままに暴走していた。蛇行するホイールの一つを避けようとして急ブレーキをかけた車のタイヤが、酷く耳障りな音を立てる。
夜間のブリッジ上の交通量は昼間と比べて格段に減っている。それだけがシティにとって幸いだった。もし、昼間の交通量で暴走されていたら、確実に大きな事故が発生していたからだ。それでも、多少の混乱がところどころで起こっている様子。
そんな一般人の右往左往ぶりも、ギャングたちにとっては面白い見せ物でしかなかった。要するに、自分たちが楽しければそれで十分。ハロウィンだってただの口実であって、心置きなく暴れられるのならきっかけはどれでもいいのだ。どこかの酒飲み音頭みたいに。
「……お?」
暴走中のD-ホイールのモニターに、後ろから走って来る一台のD-ホイールの姿が映し出された。赤を基調としたそのホイールは、ヘッドライトをパシャパシャと点滅させた。ライディング・デュエルの申し込みだ。
「デュエルしてる暇はねえ。行くぞ」
一団の中央に位置するリーダーの一声で、彼らはそれを無視することにしたのだが。
「なっ!」
赤いD-ホイールの左右から、もう二台のD-ホイールが前触れもなく飛び出して来た。黒と白の彼らは両側に強引に割り込み、サテライトの男たちのそれぞれニ台ずつを分断する。
「スピードワールド2、セット!」
《デュエルモード、オートパイロットスタンバイ》
更に、ダイダロスブリッジから枝分かれしたデュエルレーンが、ガシャガシャガシャと起動を始めたのだ。これにはギャングたちも目を疑った。正式な開通を遂げていないデュエルレーンは、幾らスピードワールド2をセットしようとも絶対動くはずがないからである。
あれよあれよという間に、六人組はそれぞれ二人ずつ、別々のデュエルレーンに押し込められてしまった。全員がルートに入ったのを確認するかのように、ブリッジとの出入り口が轟音と共に閉鎖される。
同時にD-ホイールの時刻表示が、午前零時を報せた。
「――トリック・オア・トリート?」
後に、ギャングの一人はセキュリティに語った。黒いヘルメットのD-ホイーラーは、デュエルを始める直前、確かにそう言ったのだと。