黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13
カーストらによる奇襲によって深手を負い、気を失っていたロビンが目を覚ますと、そこにはガルシアがいた。
彼だけではない。彼の妹であるジャスミンにかつてさらわれていたラリベロのシバ、さらに見慣れぬ顔の男もいた。
ついにロビンは巡り会う事ができた。それは長い長い道のりだった。エレメンタルの灯台から海へと飛び込み、最早生きているはずもない旧友との再会であった。
普通ならば、これは感動の再会に違いなかった。しかし、彼らのそれは違う。幼なじみでありながらも敵対する関係である。再会を喜ぶ気持ちを素直に表に出すことは叶わなかった。
――どうして、ここに来た…?
ガルシアから発せられた言葉である。返す言葉は決まっていた。
――君を止めるため…
その時既に灯台は灯された後であった。ロビン達はまたしても灯台を守ることができなかったのだ。
ガルシアはロビンを見つめながら腰の剣に手を添えていた。いつ戦いとなってもいいように。
しかし、ガルシアもまた負傷から回復したばかりであった。戦いは極力避けたい、というのが内心の気持ちだった。
対してロビンは剣に触れるどころか、まるで身構えてすらいなかった。ただ黙してガルシアの瞳を見返すだけだった。
沈黙は流れ、ロビンはそれを打ち破るように問いかける。
何故灯台を灯すのか。
ガルシアは問いかけには答えなかった。ロビンはガルシアが何らかの返答をするまで、いつまでも待ち続ける心積もりでいた。
しかし、それは難しい話だった。一時は呪いにかかっていたロビンである。全ては消え、回復したとはいえ、万全な状態とは言えなかった。
それに、一番重傷だったリョウカがまだ目を覚ましていなかった。彼女を放っておき、ここで言い争うわけにもいかなかった。
そこでロビンはガルシアの返答を待たずして退却することにした。
――逃げるなよ
ただ一言のこして。
本来であれば、このような事をするのは大きな間違いであった。敵対している者がのこのことやって来ることなどあろうはずもないことである。
しかし、ロビンは信じてみたくなったのである。これまでガルシアはロビンを避け続けていた。敵対していれば当然の行動である。
にもかかわらず、今回はきっとちゃんと向かい合って話ができると、ロビンは思ったのだ。
しかし、ガルシアは来てくれると信じたはいいが、どこで会うのか告げそびれてしまった。そこで、ロビンはギアナ村に戻った後、仲間達にリョウカを任せ、外で待つことにした。
すっかり日も落ちて暗くなり、辺りはかなり冷え込んでいた。しかし、震えるほどの寒さの中でもロビンは気を引き締めて真っ直ぐ立ち続けた。ガルシアが来ることを信じて。
そして思いは通じ、ガルシアはロビンの元へやって来た。
ロビンはガルシアの到着を心の底から嬉しく思った。
※※※
ロビン一行とガルシアとその仲間達は村はずれの家屋で卓につき、向かい合っていた。
なかなか話は切り出されず、その場は沈黙に包まれていた。重苦しい空気に同席している仲間は下を向いたり、視線をあちこちに向けるなど落ち着かない様子を見せていた。しかし、ロビンとガルシアだけは違った。お互いに一切視線を反らすことなく、相手をしっかりと見据えていた。そんな状態がしばらく続いていた。
ついに二人は口を開いた。先に発したのはロビンである。
「そろそろ話してくれないか、ガルシア?そのために来てくれたんだろう」
「そうだな、もう潮時だな…」
ガルシアは観念していた。
「俺達が灯台を解放する理由、それは…」
ガルシアは全てを話した。なぜサテュロス亡き後にも灯台を灯し続けるのか、まずはサテュロスを筆頭にカーストなどといったプロクスの民が灯台の解放を始めたのか、それから話を始めた。
ウェイアードの最北端に位置するプロクスの地には火の灯台があった。
プロクスの地は世界の最果てにあるためか、極寒の常冬の地であった。アンガラ大陸北西部に位置するイミルも似たような気候であったのだが、プロクスはそれとはまるで比べものにならないほどに凍てついていた。
そのような所に何故人が住むことができたのか、その理由はマーズ灯台にあった。
かつて灯っていたマーズ灯台の燃え盛る炎の力は寒冷な地に温もりを与えてきた。その力に支えられる事によってプロクスの民は生き続けてきたのであった。
プロクスの民はハイディアの民同様にエナジーを授かっていた。マーズの力によるものであり、民全てが炎を扱う事ができた。
エナジーを授かり、温もりをも得られ、何の問題もなく過ごして来れたプロクスの民の日々は、錬金術封印、すなわちマーズの灯火が消えることによって打ち砕かれた。
火の灯台が消えたことで北から大寒波が押し寄せてきた。日中も夜のように暗く、来る日も来る日も雪が降り続け、火の恩恵を受け辛うじて耕作していた作物もついに育てられないほどになってしまった。
食料不足とこの大寒波のせいで、プロクスの民の多くが犠牲となってしまった。このままであっては、プロクスは滅びる運命にあった。
そこで故郷を救うべく立ち上がったのがプロクスの北の火の一族と呼ばれる精鋭ぞろいの戦士団であった。サテュロスとメナーディを筆頭に一団を率いてハイディア村へと向かった。
アルファ山の麓に位置するというソル神殿にこそ灯台解放の手がかりがあるとサテュロス達は考えたのだった。
そして彼らはソル神殿へ潜入した。しかし、罠にかかり、多くのプロクスの戦士を失い、さらにハイディアをかつてないほどの嵐を起こして作戦は失敗に終わった。
それから三年後、再びサテュロスとメナーディはソル神殿へ向かい、エレメンタルスターを奪取するのに成功したのだった。
「彼らが執拗に灯台解放を目指しているのは今話した事が理由なんだ」
ガルシアは言った。
「奴らが灯台を灯す理由は分かった。けど、どうして君までそれに手を貸す必要があるんだ?」
ロビンは訊ねた。
ハイディアはサテュロス達、プロクスの民によって大嵐を起こされ、一時は壊滅寸前まで追いやられた。プロクスの壊滅を防ぐのに荷担するような義理はないように思われた。
「そうだぜ、あいつらが起こした嵐のせいでお前は助かったけど、お前の親は…」
ジェラルドが言った。
「いや、違う。俺の両親は生きている」
「何だって!?」
ジェラルドは驚いた。ロビンも内心は驚いていたが、表には出さずにいた。
「そしてロビン、お前の父親、ドリーも生きている」
ロビンはもう驚きを隠せなかった。これ以上ないまでに目を見開いている。
どういう事か、訊ねる前にガルシアは話した。
「三年前のあの日、アルファ山の大きな落石で俺達は皆濁流の中に飲み込まれた。だが、下流で流されていた俺達はサテュロスとメナーディによって助けられたのだ」
「父さんが、生きているって…?」
あまりの衝撃でロビンの耳には今のガルシアの声は流れてこなかった。
「それじゃあ、その恩義から彼らに手を貸していたのですか?」
イワンが訊ねた。
「いや、奴らに恩などさらさらない」
ガルシアは静かに言い放った。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13 作家名:綾田宗