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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13

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 たかだか夢であるが、どうにも胸騒ぎがしてならない。リョウカの身に何かあったのでは、とシンは敵対関係であるにも関わらず妹の身が心配になっていた。
「シン、どうしたの?すごい汗じゃない」
 シンの顔は冷や汗で濡れていた。
「おい、ジャスミン。ガルシア達が出発したのはいつ頃だ!?」
 唐突にシンは訊ねる。
「え、兄さん達ならもう今朝早くに…」
 日はすっかり登っている、時刻は正午をすぎた頃か。
「行くぞジャスミン!」
 シンはすくっと立ち上がった。瞬間右肩に鈍痛が走る。
「駄目よ!まだ傷が治ってないんだから、無理は…」
「こんなもんハナクソでも付けてりゃ十分だ。急いでオレ達も行くぞ!」
 シンは駆けだしてしまった。
「待ってシン!」
 やむなくジャスミンも後を追うのだった。
     ※※※
 シンが目覚める数時間前、先に出発したガルシア達は灯台へと到着していた。
 灯台のエレメンタルと同じものに属したエナジストなしでは開かないはずの扉が、既に開いてしまっている。これはロビン達の到達を意味していた。
 大急ぎでガルシア達も後を追って灯台を進んだ。灯台特有の仕掛けがほとんど解かれていた。やはりロビン達が先に到達した事は間違いなさそうだった。
 厄介な仕掛けがほとんどなくなっていたおかげで皮肉にも簡単に灯台の奥へ進むことができた。
「ここは…?」
 ガルシアが不思議に思ったそこは、四角い台と六角形の縁のある水のない泉のようなものがある大きな部屋であった。
「っ!?グラビティの翡翠が!」
 シバの首から下げられたグラビティの翡翠が輝きを放ちだした。輝きはやがて光の球へと変わり、泉へと吸い寄せられるように集まっていった。
 光の球は水のように泉を満たし、きらきらと瞬いた。しかし、現象はまだ終息しない。
 泉の中心から噴水のように一筋の輝く柱が噴き上がった。きらきらと輝く泉からは上へと風が吹き上がっている。この輝く柱と風が進むべき道を示している、想像に難くなかった。
「きっとこの光の筋に入れば、一気に上に行けるわね…」
 現象の終息と共に輝きを止めたグラビティの翡翠を握りしめながら、シバは言った。
「よし、それなら急ごう。ロビン達に会ってしまう前に灯さなければ」
 ガルシアは泉の前の台に登り、風の力がこもった泉へと飛び込んだ。
 突如として灯台が震動し始めた。
「な、何だ!?」
 ロビンは驚き、叫んだ。
「地震!?」
 しかし、揺れはすぐに収まった。
 ロビン達は灯台の高層階までたどり着いていた。様々な仕掛けを解いてここまでやってくる事ができた。しかし、ここへ来てもう道が途絶えてしまっていた。
 灯台の連絡通路が文字通り途絶えていたのである。橋らしきものも何もなく、ここを越えるには空でも飛ぶより他なかった。
 しかし、先程の振動により、灯台に変化が生じたのである。
「この道…」
 イワンは絶壁へと歩み寄った。
 不思議な力を感じた。風の力である。まるで風が下から吹き上がっているような、そんな力の流れを感じたのだ。
 イワンは絶壁に足を進めた。
「危ないぞ、イワン!」
 ジェラルドは叫んだ。しかしその時には既にイワンは空間へ足を投げ出してしまっていた。
 イワンの身は奈落の底へと落ちた。そこにいた誰もがそう思った。
 しかし、その予想は不思議な現象によって裏切られる事となる。
 イワンは地面の上を歩くように、平然と宙に浮いていた。吹き上がってくる風に衣服と髪の毛を揺らし、足元はきらきらと光り輝いている。
「やっぱりそうですね。ここには風の道ができているようです」
 イワンは宙に浮いたまま言った。
「どうしてそんなものが…?」
 ロビンが言った。
「恐らく先程の揺れはこの灯台の隠された何かを解き放つものだったのでしょう。その何かというのが、この風の道…」
 イワンの言うとおり、そういった類のものであるならば、何者かが行動しなければこのような現象は起こり得ない。では誰が起こしたのか、想像は容易につく。
「まさか、これはガルシア達がやった事なのか?」
「…可能性は十分にあるだろう」
 リョウカは言うとごほ、と小さく咳をした。
「ガルシア達もここに来ているのか、となればリョウカ…」
 ロビンは顔を紅潮させ、息の荒いリョウカを向いた。
「やっぱり君はもうここで引き返した方がいい」
「どういう意味だ…?」
 目もだいぶ座ってきている。とうに体は限界のようだった。
「ガルシア達がここに来てる以上、彼らに会うのはあり得る。会えば今度こそ戦いになる。ヴィーナス灯台の時と違ってな。そんな体じゃ、とてもガルシア達とは戦えないだろう」
 ロビンは諭した。リョウカの体を案じての事だった。
 再びリョウカから咳が洩れる。苦しそうに肩を揺らして、息を吸う間もないほどに、咳は断続的に続いた。メアリィが苦しむリョウカの背をさすってやる。
「…引き返した方がいい」
 ロビンはもう一度言う。
――やはり、これまでなのか…――
 リョウカに諦念の考えが浮かんだ瞬間だった。突然何かが、激しく胸を打つ。
「ぐ、うう…!」
 リョウカは痛む胸を押さえかがみ込んだ。ロビン達はすぐさま駆け寄る。
 リョウカの心へと声が響いた。
――やはり、もう…――
「な、何だ…!?」
 突然の事にリョウカも狼狽した。自らの意思とは関係なく声が響くのである。
――…保たないようですね――
「あ、あぁああ…!」
 かつてない苦しみがリョウカを襲った。全身のとてつもない痛みに地面を転げ回っていた。
「リョウカ!おい、しっかりしろ!」
 ロビンが抱き起こそうとすると突然彼の手が弾き返された。リョウカは物凄いまでのエナジーを纏い、手を触れることができなかった。無理に触れ続けようものなら手が焼き尽くされようかというほどであった。
 どうする事もできずにロビン達は苦しむリョウカをただ見守る事しかできなかった。次第にリョウカに変化が生じる。
「おい、あいつの髪!」
 ジェラルドが指差した。
「あれは、あの時と同じ」
 メアリィの言うように、その変化は以前も目にしたことがある。
 リョウカの髪色が真紅から銀へと変わっていくのである。しかし、これもまた以前ガイアロックで見たように、完全な銀へとは変化しない。真紅と白銀が合わさり、鴇色のような色になっていく。
 なおもリョウカは苦しんでいる。しかし、ロビン達には手も触れられない。手の施しようがまるでなかった。
――苦しいよ…、兄様…!――
 時を同じくしてシンとジャスミンはジュピター灯台へ向けて草原を駆け抜けていた。
「っ!?」
 突然シンは立ち止まった。
「どうしたの、シン?」
 ジャスミンは炎の翼を畳み、地面に降り立った。
――今、リョウカの声がしたような…――
 シンは辺りを見渡す、しかしリョウカの姿どころか人の姿も一切見られない。
 ジャスミンはなぜシンが突然立ち止まったのか、訳が分からずただ彼を見ていた。すると突然彼はエナジーを発動した。
『颯の術!』
 発動と同時に風が舞い、シンの足元が風のエレメンタルを表す紫色に輝き始めた。