黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13
ガルシアの両親、そしてロビンの父親までもが北の火の一族に捕らえられている事実、それから、灯台を灯さなければ世界は滅亡する宣告を受け、最早彼らは敵対する理由がなくなった。
灯台解放阻止がロビン達の使命であったが、それらのことを知ってしまった以上、その行動はただただ世界を確実に滅ぼすことになる至極の愚行となった。
さらに、ロビンはこれまで持ち続けてきた最後のエレメンタルスターであるマーズスターを盗まれていた。アレクスがロビン達を手当している時に彼が隙をついて盗み取ったらしかった。
ロビンもガルシアもカースト達に用済みと殺されかけた。真の敵は最早お互いではない、カーストとアガティオであった。
「ガルシア…」
ロビンは静かに口を開いた。
「もう、オレ達にはお互い戦う理由なんかない。これからは世界を守るために共に歩こう…!」
ガルシアは目を伏せ、しばしの沈黙が流れた。そして彼はロビンを見返し、答えた。
「ロビン、お前の言うとおりだ。俺達の敵は奴ら、北の火の一族!お前たちではない。世界を守る大役、俺如きが勤まるか分からぬが、このガルシア、全力をあげて力になろう!」
ガルシアが言うと、これまで緊張状態だった皆もそれを解かれ、喜びを露わにした。
「ありがとう、ガルシア!」
ロビンとガルシアは固く握手した。
「やったぜ!これでまた昔みたいにオレ達仲良くできるんだな!」
ジェラルドは諸手を上げて大喜びに喜んだ。
「よかった…、兄さん達が争わなくて済んで…」
二人がこの先どうなってしまうのか一番心配していたジャスミンは、安堵のあまりに涙を流した。
「泣かないでください、ジャスミン。これからはみんな一緒ですよ」
イワンが微笑みかけた。
「そうね、イワン」
ジャスミンは微笑みながら頬の涙を指で拭った。
「こんなに仲間が増えるなんて嬉しいなあ。同じ水のエナジストどうし、これからよろしく、メアリィ」
「こちらこそ、ピカード」
皆それぞれが喜んでいる様子を、シバとスクレータは微笑ましく眺めていた。
そんな中、浮かない顔をしている者が一人いた。灯台で全てを知ってしまったその者は、あの彼女と再び合間見える事を不安に思っていた。
その不安を押し切ってシンは訊ねる。
「ロビン、リョウカは…」
「こほ…、私がどうかしたか?」
奥の部屋よりドアを開け、寝間着姿のリョウカが姿を出した。
「リョウカ、もう起きて平気なのか?」
ロビンが言った。
「安心しろ、もう熱なら下がってる…」
リョウカはそう言いながらも二度、三度咳き込んだ。
「まだ咳が出てるじゃないか、寝てた方がいい」
「大丈夫と言っているだろう。それに、皆が大層な話しをしているというのに、私だけ寝てもいられん」
これまでの話はどうやら聞こえていたらしかった。
「リョウカ、聞いていたのか?」
「狸寝入りするつもりはなかったのだがな、立ち入る機会が掴めなかったんだ」
世界が破滅へと向かう、そのような話が聞こえた頃合いにリョウカは目覚めていた。
これまで敵対していた者と仲間になる事ができる喜びに皆が色めき立っていた所、シンがリョウカの話を出した時ようやく話に入るタイミングを掴んだのだった。
リョウカはつかつかとシンへと歩み寄った。
「久しいな、シン。あの日以来絶対に会うことは叶わないと思っていたのに、まさか生きているとはな…」
不思議なものだ、リョウカは軽くむせながら言った。
不思議だと思うのはシンの方だった。彼の知っているリョウカは体が丈夫で病気など全く知らないのではないかと思うほどだった。それが今はすっかり弱りきり、あの日あれほど激しく戦ったのが嘘のように感じられた。
血の気の薄い真っ青な顔をし、うっすらと死相も見えた。リョウカに宿る女神、シエルの言うとおり肉体はもう限界を超えてしまっているようである。シエルは保って後半年などと言っていたが、この様子を見るに半年も生き長らえるか分からなかった。
「リョウカ…、そんなに、弱っちまって…」
シエルに言われた時既に心は決めていたつもりだった。しかし、弱った当の本人を目にして平気でいることなどできなかった。
「ただの風邪だ。そんな情けない顔をするんじゃない」
自分がどんな状態にあるのか、知らないリョウカは憎まれ口を叩くが、シンの目には哀れにしか映らなかった。
「しばらく見ない内に、随分と情けなくなったものだな。情に流されるのは忍として、いや、剣士として失格だろう?」
尚も憎まれ口を叩く。何も知らぬが故の言葉である。長年連れ添った家族に死が迫っていた。そんな事実をさらけ出され、ついにシンの中で何かが爆発した。
「リョウカ…!」
シンはその場で涙した。そこにいた全員が彼が涙を流すのは初めて目にした。リョウカも最後に記憶にあるのは彼が幼少の頃、両親が死んだ時だった。
「泣くんじゃない、シン。姉様にも、言われていただろう?ふん…そんな様子じゃ、世界は救えないね…しょうがないから、私も手伝ってあげる…、兄様一人じゃ、任せられないからね…」
リョウカもつられて涙ぐんだ。ロビン達のように彼女らも敵対していた。その必要がなくなった今、二人はまた家族に戻る事ができた。
「リョウカ…、安心しろ、…お前の事は…オレが絶対に、守って…やるから…!」
シンは流れる涙を拭うこともせず、リョウカを固く抱き締めた。
「みんなの前で…、恥ずかしいな…。もう、しょうがないね…兄様は…」
妹は再会を喜び、兄は残り少ない命の妹を想い、泣いた。
シンはシエルの約束は忘れ、ただリョウカを守る、そんな誓いを胸に痩せたリョウカの体を抱き締め続けた。
※※※
ロビンとガルシア、シンとリョウカ、と敵対していた者達が合流してから一夜が明けた。
一行はハモに出発の準備ができ次第、ガルシア達がアテカ大陸へ上陸した時に船を碇泊させていた入江に来るように言われ、言伝通りギアナ村を後にした。
ロビン達の乗ってきた船はまた別な所にとめていた。彼らの船は約百年前にかつてレムリアにいたバビが盗み出したものであり、その所有者も死んだ今、その船はレムリアへと返されなければならなかった。
船は全てが終わった後でピカードが回収する事になり、ハモが預かる事となった。
ハモは言伝をするときに、楽しみにして入江に来るようにと言っていた。一体何が待ち受けているのか、ガルシアには皆目見当も付かなかったが、ロビンには粗方分かっているようだった。
そして一行は入江に辿り着いた。そこには驚くべき風景が広がっていた。
「な、何だありゃ!?」
「僕の船に、翼が…!?」
ジェラルドとピカードの二人が驚きの声を上げた。
ピカードの言うように、船体の両端に大きな木でできた白い翼が取り付けられていた。
辺りには朝も早いと言うのにギアナ村の人々が群れをなしていた。これまで翼を造り上げるのに尽力し、その翼で船が空を飛ぶという途方もない瞬間を今か今かと待っていた。
「皆さん、いらっしゃいましたね」
人だかりの中央にハモがいた。
「ハモ様、これは一体…?」
ガルシアが訊ねた。
「ご覧の通り、船を飛ばすための翼を取り付けたのです」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13 作家名:綾田宗