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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13

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 ヒエイは狼狽しきっていた。チャンパ村炎上の危険もあったが、それ以上にジェラルドの身に危機が迫っていた。
「ちきしょう!うぐ…っ!がああああ!」
 ジェラルドは天を仰ぎ喉が張り裂けんばかりに叫びを上げた。
「ジェラルド!」
 ロビンはジェラルドに駆け寄ろうとした。するとジェラルドは漆黒と紅に染め上げられた剣を振るった。ロビンはすんでのところでかわす。
「これはやばいな…、ジェラルドの奴完全に剣に取り憑かれちまったようだぜ…」
 シンは眉をひそめた。
「一体どうすれば…」
 暗黒エネルギーはヴェスタとジェラルドを取り込んでしまった。ダークマターに秘められた闇はそれほどまでに危険なものだったのだ。
「…こうなればあの坊主ごと剣を叩き割るしかないね」
 ヒエイは言う。確かに暗黒エネルギーを発しているのはジェラルドの持つ剣である。以前、カーストの鎌にダークマターが打ち込まれていた時、ダークマターが切り外された瞬間全ての暗黒現象は消えた。
 しかし、今はジェラルドと剣ごと、ダークマターは混ざり合っている。それは即ちジェラルドごと叩き斬るしかないのである。
「ジェラルドを斬る…」
 そのようなこと、その場にいる誰にもできるはずがなかった。
「仕方がねえ、その役はオレがやろう…」
 シンは双刀に手を伸ばした。
「シン、正気か!?」
「元はといえばオレが言い出したことだ、ガルシア。自分で蒔いた種は自分で刈る…」
 シンは自責の念にかられていた。そしてその責任を果たす剣はだらりと下を向いた姿のジェラルドへ向いた。
「すまない、ジェラルド!」
 シンは一瞬にして間合いを詰め、ジェラルドの首めがけて刃を振るった。
「おいおい、仲間に刃を向けるなんてどういうつもりだ?シン」
 シンは驚き、刃をジェラルドの首筋に止めた。
「ジェラルド!?」
 そこにはこれまでの彼の澄んだ瞳があった。闇に取り込まれているようにはまるで見えない。
「オレとしたことがちょっと油断しちまった。一時でもこんな剣ごときに捕らわれちまうなんてなあ」
「ジェラルド、お前どうして平気…」
 最早襲いかかってくる様子のなくなったジェラルドを見て、シンは剣を納め、ふと気付いた。
「そうか、火のエナジストの!」
 火のエナジストが持つ熱くたぎる炎が、どんなものであっても浄化するという事がだった。例えそれが呪いであれ、暗黒エネルギーであってもである。
 ジェラルドは自らを解放する事ができた。しかし、ヴェスタの方は未だダークマターによる浸食を受けており、暗黒の炎は広まり続けている。
「こいつはどう捌こうか…」
 ロビンは言った。最早ダークマターによる暗黒の力に浸食され、ヴェスタは魔物と化していた。
「へ、試し斬りにはちょうどいいんじゃねえか?」
 なあ、ガルシア、とジェラルドは笑みを見せた。
「ああ…」
 突然ガルシアは腰元に振動を感じた。彼の持つ魔道書が脈動していたのだ。
 魔道書が脈動を放つとき、それは新たな黒魔術が綴られた時である。
 ガルシアは手元にやって来た魔道書を片手に自然とページがめくられていくのを眺めていた。そして新たに綴られた黒魔術の呪文のページで本は止まった。
 これまで同様に呪文を見ただけでそれがどのようなものかガルシアの脳裏に浮かんだ。そしてそれはこれまでとは勝手の違うものであった。
「ジェラルド、剣を暗黒の炎に向けろ!」
 ガルシアは叫んだ。
「っ!?分かった!」
 ジェラルドは突然の命令に驚いたが、言うとおりに切っ先を暗黒の炎に向けた。
「感じるか、剣に秘められた特殊な力を」
「ああ、ガルシア。ビンビン感じるぜ。真っ黒だが、とんでもない力をな!」
「よし、そのまま念じ続けろ!」
 ジェラルドが暗黒剣に力を集約している間、ガルシアは魔道書に表れた魔術を詠唱した。
「冥府へと繋がる闇の川、それに集いし、深哀なる刃…」
 その続きはジェラルドの脳裏にも表れた。そして二人同時に詠唱した。
「アケロングリーフ!」
 天井に暗黒の吹き溜まりが発生し、空間を打ち破りながら巨大な剣の形をしたエネルギー体が姿を現した。
 剣は暗黒エネルギーを撒き散らしながら漆黒の炎に突き刺さっていく。その様子はある力に似ていた。
「あれは、タイタニック!?」
 ロビンが叫ぶとおり、巨大なる漆黒の刃もエネルギーを撒き散らし突き刺さっていく様子も、ロビンの持つガイアの剣の特殊能力、『タイタニック』に似ていた。しかし、それは似て非なるもので、放出されるエネルギーは闇の炎と同じくらいに闇に満ちていた。
 暗黒の巨剣が漆黒の炎を貫き通すと、凄まじい爆発を起こした。これもまたガイアの剣と同じである。
 漆黒の炎はその勢いを弱めた。巨大な闇と闇とがぶつかり合う事で相殺されたのだ。
「よし、次は俺が!」
 ガルシアはエクスカリバーを抜きはなった。先ほど召喚した剣と威力を弱めながらも燃え続ける暗黒の炎とは相対する聖なる力がエクスカリバーには秘められていた。
 闇と闇とがぶつかり合う間にガルシアはエクスカリバーの力を放った。
「セレスレジェンド!」
 ガルシアが天に向けてエクスカリバーを掲げると、上空に巨大な二つの魔法陣が歯車のごとく互い違いに回りながら現れた。
「はあ!」
 ガルシアはエクスカリバーを振り下ろした。その剣の動きに合わせ、魔法陣よりタイタニックやアケロングリーフには及ばないものの、大きな刃が降り注いだ。
 暗黒エネルギーの塊に、聖なるエネルギーが当たった事で、セレスレジェンドの刃が炎の闇を浄化していった。
 ヴェスタも消え去り、全ての凶事は終息した。
「やったぜ!二人ともたいしたもんだ、なあロビン?」
「そうだな、シン。特にもあの連携プレー、見事だったな」
 シンとロビンは二人の働きに大いに感服していた。
「闇の力には闇と、毒を盛って毒を制す作戦はどうかと思ったが。最後の聖なる剣での一撃で神様はお怒りを鎮めてくださったようじゃね」
 ヒエイも終始恐れをなしていたが、全てが終息し、安堵していた。
「…けど、もうあんな事が起きるのはごめんだよ!坊主、もうあの黒いものは持ってこないでおくれよ」
 同時にシンを戒めた。
「そうだな、ごめんよ婆ちゃん…」
「全くだぜ、オレも一瞬とは言え剣の呪いにやられそうになったし、お前には刃を突き立てられるし、全くろくでなしだな!」
 ジェラルドもシンに軽く立腹していた。
「って、てめえは最後には乗り気だったじゃねえか!」
 これにはシンも納得しなかった。
 言い争いをする二人を苦笑しながら宥めるロビンを後目に、ガルシアは魔道書をめくっていた。
 パラパラとページを繰り、ある呪文を探していた。先ほどの異変で表れた『アケロングリーフ』である。しかし、どれほど探してもあの一節はなかった。その代わり、そこに一節があったと思われるページにまた別の黒魔術が刻まれていた。
 深哀の刃より出でる猛毒の牙、ポイズンスタッブ。そう記されていた。
 さらに新たな呪文がもう一つ表れていた。
 冥府に棲む者を呼ぶ声、サモン。