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結局最後に残るのは、「すき」と「だいすき」なんだろう姉弟の話

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(それにこの後気まずすぎるだろこれ……。熱のせいでこうなってるんだろうし、言い訳は出来るだろうが……って何やってんだ私)
 忘れてくれてればいいんだが、と思いつつ、智子の手は無意識に弟の頭を撫でていた。その事に気付いて動きを止めるが、ややあってその動きを再開させる。
(………………病人は甘やかすもんだろ、常識的に考えて!!)
 だがお前この事もきっちり忘れとけよ!?と内心で祈りつつ、智貴の頭を優しく撫で続ける。
 平時では絶対に出来ないだろうが、状況が状況だ。私はやさしーおねえちゃんだからな!!と誰に対してか言い訳しつつ。
(……万一覚えていても、知らん振りするだろうしな。取り敢えずこいつが寝たら布団から抜け出そう)
 そうすれば夢だったと思うかもしれないし。
 うむ、と一つ頷いて、自分の思考に納得しつつ。
「おねーちゃん、だいすき」
(おうふ)
 唐突な弟の言葉に悶絶した。
(おまっ、何を言ってるんですかどこまで退行しちゃってるんですかマジで大丈夫かコレ!?)
 いくら熱や寝惚け半分の所為とはいえ、ここまで普段と違うと不気味を通り越して本気で心配になってしまう。
 しかし当の本人はご機嫌だ。近年見た事もない位に幸せそうな顔で、ごろごろと懐いてくる。
 物理的に胸の辺りがくすぐったい。だが、それだけではなく、中の方もこう、くすぐったい様な、きゅんきゅんする様な。
(……い、いやいやいや、この年でこれはないだろ恥ずかしいわ!!……でもちょっと嬉しいかな……って何言ってんの私!?)
 いかん、私も思考がおかしくなってきた……と遠い目をしながらも、手は弟の頭を今も撫でていたりする。
 その事に気付く事も無く、病人相手だから仕方ないんだ!!これは保護欲だよおねえちゃんやっさしー!!なんて心の中で叫ぶ。
 何故そこまで誤魔化しに走るのか自分にも解らないが、とにかくそれで無理矢理納得しつつ。
「……すー……」
(……あ、こいつ寝てやがる)
 穏やかな寝息と若干緩んだ腕に気付き、溜息を吐いた。
「……ったく、このアホが……」
 悪態をついてみるも、大して負の感情は湧いてこない。
 疲れと驚きと戸惑いと困惑。それらをもたらした愚弟だというのに、今自分がしたいと思う事は随分と、あまりにも。
「……智くん」
 小さく呼んでみるが、智貴は別段反応せず、規則正しい寝息を立てて眠っている。
 先程までの苦しげな様子とは程遠いその姿に少々疑問に思ったが、先に立つのは安堵に他ならない。
「………………」
 腕は緩んでいるし、眠りは深そうだ。
 このまま抜けられそうだが、なんとなく勿体無い気がして暫くそのままで。
(……大丈夫、かな……)
 そして内に生まれた衝動に従い、そろりと行動に移す。
「……おねえちゃんも、智くんすきだよ」
 いつぞやに発見した昔のビデオで、自分達は随分と恥ずかしくも微笑ましい事をしてたんだなぁ、と思いつつ。
 でも今やったらキモイわーこれーとか笑い飛ばしていたその行為を、してみたくなったので。
 囁く様な、微かな声でそう告げて。
 胸に顔を埋めているせいで場所的につむじ辺りになってしまうが、柔らかな口付けを一つ。
 あのビデオでは額だったが、まぁそれは流石に恥ずかしすぎるのでちょうどいいよな、とばかりに。
 その行為を終え、少々気恥ずかしくもなったが、それを上回る満足感を得て。
(……さて、それじゃあ今の内に抜け出して……って、あれ?)
 緩んでいた筈の腕が、またがっちりと自分の身体を捕らえていた。
(………………あ、あれぇ……?)
 慌てて智貴の様子を窺うが、変わった様子はみられない。
 ただし、腕の力だけは自分を拘束する程度の強いものになっていて。
(……やっべえ、機を逃した……?)
 こめかみに一筋、汗が流れた気がした。





(……ん、あれ……)
 ふと、目を覚ます。
 なんだかふわふわしてあったかい気がする。
 何秒かぼうっ、として、ああ、寝てたんだっけ……とうまく働かない頭で考えて、漸く気付く。
(…………なんだこれ?)
 目の前に何やら温かくて柔らかい物体がある。
 それは規則正しい動きをしていて、その奥から規則正しい音もする。
 とくとくと、心地いい、安心する様な音。
 何度か目を瞬かせて、そして腕に柔らかい感触がある事と、頭を優しく抱き込む腕を知覚する。
 そして。
「ん……ともくん…………?」
(………………ッ!!?)
 その正体に一気に辿り着き、智貴がびしり、と固まった。
(えええええ何で!?姉ちゃんが何でここに!?また風邪菌の中に飛び込んできたのかこのバカは!?……俺の腕は何故こいつの腰に回っているんだバカか、バカなのか!!)
 智貴、絶賛混乱中。
 驚きのあまり固まったせいで腕を解く発想にも至らない。
 そんな智貴に何を思ったのか、ぽんぽん、と優しく頭を叩き。
「……おねーちゃんも、ともくんすきだよー……」
(ぶぼふっ!?)
 それはいつぞやの黒歴史ビデオ!!姉ちゃんも発見してやがったのかジーザス!!などと熱の後遺症か混乱が続いているのか訳の解らないテンションで内心叫びつつ。
「ん……すぅ…………」
 そのまま寝息を立てて眠りに入った姉を確認し、恐る恐る顔を上げた。
(ち……近い……!!なんだこれ……)
 密着していたのだから当たり前だが、改めて今の状況を確認し、赤くなったり青くなったり忙しい。
(…………えーと……俺、普通に部屋で寝てたよな?)
 その筈だ。熱が出て苦しくて、それから……。
(………………あれ、姉ちゃん来たっけ?)
 どうにも曖昧でよく思い出せないが、来た様な気がする。
(……それで、どうしたんだっけ…………)
 うんうん唸りながら思い出そうとするが、未だに姉の胸の中だという事に意識がいっていない智貴である。
 思考に没頭しているせいか、姉の腰を掴む腕はそのままに、どころか無意識に力をこめてしまう。
 そのまますり、と自然に目の前の柔らかいものに額を擦り付け。
(………………何してんだ俺!!これ姉ちゃん!!姉ちゃんだから!!胸なんてねーだろ何してんだバカか!!……いやでもないなりに柔らかちげええええ!!!)
 男の本能か姉好きだった幼少の頃の名残か。
 内心で絶叫しつつも腕は離さない、放せない智貴だった。



(……最悪だ……)
 そのまま暫し。
 姉が起きるのを恐れて微動だにせずいた智貴だが、一連を朧げにだが思い出し、羞恥と自己嫌悪に深い溜息を吐いていた。
(俺は何トチ狂った事を言ってんだあの時の俺を殺したい)
 本気でそう思う智貴の目は死んでいた。
(……しかし、何でこいつこんなに大人しいんだ?熱あったってそんな事すりゃ蹴り飛ばすくらいすんだろ、いつもなら)
 眉を顰めて姉の様子を窺う。
 今は寝息を立てて眠っているが、この状態で起きたらどんな事になるか考えただけでも恐ろしい。
 それでも。
 先程のあの言葉や未だに自分の頭を抱える柔らかな腕に、恥ずかしさと共に喜びと安堵を得ている自分がいるのも事実だった。