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魔王と妃と天界と・1

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 ラミントンは、基本的に穏やかな物腰で、口調も柔らかい。だが、意外に思うかもしれないが、普段は丁寧語寄りの言葉遣いではない。
 だが、改まった席では言葉も選ぶし、状況によって使い分けもする。
「だ、大天使様!!しかしですなっ……」
 そして、今回の状況もそれに当たる。彼は、冷静に怒り、それを硬質な冷たさを伴って、言葉に出すタイプだった。
「黙りなさい。天界と魔界とが友好を築き、歩み寄ろうとしている時に……」
 すう、とラミントンの眼が静かに開かれる。
 そこに含まれる冷ややかな怒りと確かに感じる威圧とに、ひっ、と小さく声を漏らすブルカノに構わず、ラミントンは言葉を続けた。
「……ブルカノ、魔界を見て回りなさい。その足で、その眼で見た魔界を受け入れ、その上で考えるのです。根拠も何も無く、魔界の住人が悪だという決めつけをいつまでも口にしているようでは、天使長としての地位を剥奪する事も視野に入れなければなりません」
「そ、そんなっ……!?」
 狼狽するブルカノに厳しい視線を送り、黙らせる。
 そして、ラハール達へ向き直り、
「申し訳ありません。やはり、目を離すべきではなかった様で……」
「想定内ではあったがな…。しかし、勝手に決めてくれたものだな。こんなのにウロウロ魔界を動き回られたら、オレ様の評判が下がるではないか」
「私も同行しますので」
「……仕方あるまい」
 溜息を吐きながら了承するラハールに、にっこりとラミントンが微笑む。
 本当に天使は頑固だ、と呆れつつ。
「ならば、今回は特別だ。オレ様達も同行してやろう。貴様等だけでは心配だからな。いいな、フロン、エトナ」
「はいっ!!天界ツアーですねっ!!魔界のいい所をわかってもらうチャンスです!!」
「え~マジですか~?めんどくさ~」
 気合い十分で頷くフロンと、やる気ゼロでぼやくエトナ。
「誰が貴様等などと……」
「ブルカノ」
「………だ、大天使様がそう仰るなら……」
 渋々ではあるが、ラミントンの言葉にそれを了承するブルカノ。
 正直不安要素しかないが、なるようになるだろう、と些か投げ遣りに思いつつ、ラハールはそんな面子を引き連れて魔界を練り歩く事にした。



 ──城から少し離れた場所には、街が広がっている。
 更にその街から少々離れた場所には、フロンの教会がある。 
 教会は真っ白な壁の建物だ。窓にはステンドグラスが填め込まれており、上の方には大きな鐘がぶら下がっている。
 魔界においては珍しいを超えて異彩を放つ建物だが、今では誰も気にしていない。
 今でも大半が子供達の居住区として使われているが、フロンの愛と来る者拒まずの精神で、基本的には一般に開放されている。
 たまにその存在が気に入らないと破壊や略奪を目的に来るならず者の悪魔もいるが、そこに住むのは様々な教育を受け、逞しく育っている子供達だ。
 教会の警護と管理を任された兄弟悪魔や子供達の世話役兼爆弾なプリニー達もいるし、何よりバイアスが気に掛けている為、深刻な被害が出る事も無く、概ね平和にやっている。寧ろ子供達の反撃に、襲撃に来た悪魔達が半泣きで逃げる事もあるくらいだ。
 その光景も近くに住む連中にとってはいつもの事で、また派手にやってんなぁ、なんて呑気に言いながら酒を片手に見物に来る悪魔もいたりする。
 教会なのにこの馴染み方はどうなのかと思わないでもないが、魔界の教会だ。らしいと言えばらしいのかもしれないと、フロンも苦笑と共に肯定していた。
 庭の花壇には、マデラスを浄化した跡に咲き乱れていた、あの大輪の濡れ羽色の花が植えられている。
 白の教会と黒の花。
 その色の共存は、魔王と王妃のそれの様で、見る者達に二人の姿を連想させた。
 魔界の植物は一人で動いたり凶暴だったり襲ってきたりするが、そこに咲くのは闇色といえど静謐ささえ感じられるもので。
 悪魔達も物珍しげに眺める事も多く、そしてそれもまた、当然の光景となり。
 同時にやはり、魔王と妃の存在も当然のものとなっていた。
 そんな教会に到着した一同。
 街を抜け、まずはここから、と案内したはいいものの。
「……ふん。紛い物が……」
 予想通りと言うべきか、ブルカノが嫌悪も隠さず吐き捨てた。
 声音は小さめだが、一同にはしっかりと聞こえたので。
「確かに天界のものとは違いますが、ここは魔界ですから」
 その認識はどうかと思います、とフロン。
「……事実を言って何が悪い」
「魔界に天界のものを取り入れた、相互理解の第一歩ですよ?そんな事にも考えが及びませんか」
「私を侮辱するか!!」
「魔界とそこに住む皆さんを侮辱したのは貴方が先でしょう!!」
 睨み合い再開。
「……フロンちゃんがこわひ」
「滅べだ何だ言ってりゃそーなる」
「ブルカノェ……」
 うへぇな感じでエトナが呟けば、呆れた様にラハールが続き、ラミントンも顔に手を当てながら溜息を吐いた。
「大体何だ!!あの街とは名ばかりの乱雑で適当な建物の群れは!!統一性や機能性というものを考慮しない悪魔共の醜さを体現した美しさの欠片も無いゴミ溜めの次はこの紛い物か!!ふざけるのも大概にせよ!!」
「なんてことを!!悪魔さん達の活気と自由さを感じ取れなかったんですか!?確かにちょっと元気すぎて大変な事になる事もありますけど、皆さん楽しく生活してくれてるんですよ!?」
「ほざけ!!この様な秩序無き世界など、早々に壊れるわ!!自壊という形でな!!」
「法と秩序に縛られすぎてしまっては、悪魔さん達の自由さや奔放さが失われます!!天界の住人と違い、悪魔の皆さんは活動的で行動的なんです!!」
「魔界の連中を正当化させようとするな、堕天使!!」
「ブルカノ様こそ必要以上に魔界の住人を貶めるのはやめて下さい!!」
「魔王とその妃にあの様に敬意の欠片も無く話し掛ける様な連中への当然の評価だろうが!!」
「萎縮しまくっていればいいとでも!?あの豪胆さも悪魔さん達の強さなんですから、否定しないで下さい!!」
「あれでは獣と変わらんわ!!粗暴で野蛮な悪しき者共め!!」
「よく知りもしないでそんな風に言うのはやめて下さい!!」
 フロンとブルカノの言い合いも再開された。
 街は殆ど通り過ぎただけだったが、ブルカノにはお気に召さなかった様だ。
 天使二人を連れて歩く魔王と王妃に興味を惹かれ、気安く声を掛けてくる者にも険しい顔をしていたし、色々と鬱憤も溜まっていたのだろう。
 大天使の前だという現状も頭から吹っ飛んでいるのか、フロンとの言い合いは終わりそうもない。
「しっかしよくもまぁ、あんだけの罵倒暴言が出てくるわねー」
「やはり悪魔の方が向いているのではないか?そうなってもオレ様は引き取らんが」
「それは残念だね」
「おい」
「冗談だよ。……しかしこのままでは埒が明かないね……。……後ろから頭かち割ってみようか」
「大天使ェ」
「冗談だよ」
「……流石上司、物騒だわぁ……」
 ラハールとラミントンの遣り取りを横目に、天使って一体……とか思いつつ、エトナが呟いた。
「おやおや、騒がしいと思えば……」
「あ、バイアス様!!」
「む、親父か」
作品名:魔王と妃と天界と・1 作家名:柳野 雫