こらぼでほすと 花見1
「おまえは、妙齢の女性。リジェネは子供だ。違うだろ? 」
「今更、それを理由にされますか? 」
ほぼ五年近く、本宅に歌姫様が居る時は、同じベッドで休んでいたわけで、今更、それを言われても、歌姫様も納得がいかない。
「お昼寝の時に、試してみれば? ママ。ラクスもやってみたいんなら、やってみればいいじゃない。」
「・・・リジェネ・・・恋人でもない男女がひとつのベッドに寝るなんて、おかしいことなんだ。」
「男女って、ママはママでしょ? 僕だって、アレルヤとは一緒に寝たいとは思わないし、ロックオンなんか気持ち悪いと思うよ。」
「俺、そのロックオンと、ほぼ同じ顔なんだけど? リジェネ。」
「顔は同じでも、空気が違う。」
「私もロックオンだと同じ部屋もお断りですわ、ママ。」
はい、冷めないうちに、と、リジェネにスープ皿を渡している歌姫様も、そうおっしゃる。どこでどう違うのか、明確なものはリジェネにもわからないが、なんとなくママはいいのだ。
ここまで言われてしまうと、ニールも諦める。どうせ、クスリを飲んだら速攻で眠ってしまうのだ。ニールが無意識に何をしていようと知ったこっちゃない。
「わかったよ。昼寝してみればいいんだろ? 」
「うふふふ・・・そうです、そうです。昼寝しましょう。」
「襲ってやろうか? ラクス。」
「喜んで。それなら、ちょっと大人なムードのナイティでも着ましょうか? それとも、脱がせるところからが、ご希望ですか? 」
そんな気、微塵もないくせに、と、歌姫様は余裕だ。そんな気があるなら、とっくの昔に襲われているはずだ。
「・・・バカッッ。」
ちょっと大きめに怒鳴ったら、リジェネが隣りから口を塞いだ。怒鳴るな、と、叱っている。
「ストレス解消に付き合ってください。」
「・・・・わかったよ・・・おまえも、いい加減、キラをなんとか攻略しろ。」
「キラは面倒臭いっておっしゃいます。能動的に動くのが、面倒だそうで、私が、いろいろとやるなら付き合うとはおっしゃるんですが・・・・さすがに、そんな技術はございません。」
普段、受身になっているキラにしてみると、一々、自分で動くのが面倒ならしい。ニールには、ピンとこない。
「そういうもんなのかな?・・・てか、その意見もどうなんだ? アスランが憤死しそうだぞ?」
「キレて大変なことになるでしょうね。」
「そのうち、技術を取得すればいいんじゃないか? 」
「どこで、ですか? ママ。その技術を取得するためには、実践が必要なんですよ。」
「・・・あー・・・そうか。こればかりはなあ。」
宇宙規模に有名な歌姫様では、行きずりの相手と一夜を共にするなんていうのは無理な話だ。ハウトゥ本で知識は得られても、実際にやってみないことには技術が手につかない。確かに、どこで? な話だ、と、ニールも苦笑しつつスープに手をつける。今、さらりと、とんでもない会話がされていたが、いちいち、気にしてはいけない。ここにいるのは、家族みたいなものなので、日常会話という括りに該当している。
刹那からのメールの返信を受け取ったキラのほうは、アスランに、それを見せていた。まあ、そんなところだろうという範囲なので、アスランも考えていた範囲になる。
「これぐらいなら、お安い御用だ。宿も考えていたところで大丈夫だし、手配も楽勝だよ、キラ。」
「なら、よかった。・・・・まあ、ちょうどいいよね? 一晩、ラクスが独占して、そこから刹那が独占すればいいだけだ。」
ラクスから、おかんは一日借り受けますので、という連絡が入っていた。ついでに、刹那の独占の邪魔になってしまうリジェネのことも考えてくれている。
食後のお茶を飲んで、一息つくと、ラクスはリジェネに明日から一緒に旅をしませんか? と、言い出した。
「旅? ママは? 」
「ママは刹那が降りて来るので行けません。刹那が誕生日の贈り物としてママの独占をリクエストしていますので、リジェネがいると駆逐されます。・・・・ちょうど、世界遺産のある場所に参りますので、コンサートの後に一緒に見学してみませんか? リジェネ。海もありますし、砂漠もありますから、ワイルドな風景を見られますよ? 」
ラクスがコンサートを行なうのはオーストラリア大陸だ。確かに、世界遺産は、いろいろと揃っている。三日間のコンサートを終えたら、ラクスも少し時間をとって気晴らしするつもりだった。
「あーそうか、刹那がママの独占したいなら、そうなるよねぇ。・・・・ティエリアも、そんなこと言ってたなあ。」
もちろん、ティエリアからも刹那が降りたら、邪魔はしてやるな、とは言われていたので、リジェネも特区のホテルへでも滞在するつもりはしていたのだ。それなら、一人寂しくホテルで滞在するより、歌姫にくっついて遊びにいったほうが楽しいかもしれない。
「え? 大丈夫なのか? リジェネ。」
「ママと離れても大丈夫かってこと? 」
「・・・ああ。」
ニールのダウンで精神的に不安定になっていたので、それをニールは心配している。なるべく、傍に置いて相手はしていたが、離れても大丈夫なのか、ニールも気になる。
「うん、なんか、ママは、ちょっとやそっとでは死ねないんだな、ってのは理解した。だいたい、三蔵さんが許可しないと死ねないんでしょ? たふん、許可しないよ? 三蔵さん。」
寺での夫夫のやりとりを聞いていたら、とてもではないが、ママは、すぐに、どうにかなるとは思えない。坊主は、女房がいないと途端に不機嫌になるし、いちゃこらと暮らしているとしか思えないからだ。それに、ママのほうも、それが楽しいらしいし、坊主を信頼している。なんていうか、死ぬとか心配するのがバカらしくなるぐらいに、いちゃいちゃと日々、過ごしている。それを目の辺りにしていれば、ママは死ねないんだろうと理解できた。だから、それほど離れることに不安は抱かなくなった。まあ、リジェネが甘えたいから、ベタベタとしているが、それだって少しぐらいできなくても問題はない。寂しくなったら寺へ帰ればいいだけだ。
「まあ、あの人が許可してくれるのは、ずっと先だろうな。それに、ラクスが何が何でも生かしておくって豪語してるしさ。」
「当たり前です。老衰までとは申しませんが、老齢と呼ばれる年齢までは生きていてもらいますよ? ママ。」
「ということらしいぜ? リジェネ。離れられるなら行って来いよ? たまには変わった景色を拝むのも楽しいはずだ。」
「そうだね。僕だけ綺麗な景色を見てないから、それはいいかもしれない。」
「では、話は纏まりましたわ。明日、一緒に出かけましょう、リジェネ。予定では一週間というところです。IDカードは、こちらで適当に作りますから、私の随行員ということで。」
「オッケー。それじゃあ、クスリだけ刹那に説明しなくちゃ。」
「それは、アスランとハイネがやってくれます。」
「つまり、この予定は、すでに確定していたんだね? ラクス。」
「ええ、刹那がママの独占を、と、以前から言ってましたから、リジェネにはお寺からは離れていただくつもりでした。ちょうど、私の予定も合ったので、お誘いしたんです。」
作品名:こらぼでほすと 花見1 作家名:篠義