yamatoⅢ 太陽制御の後で 1
「どうぞ」
ノックの音に反応して進が扉を開けた。進は立っていたのが真田だったので驚いた。
「ユキに休め、って…」
バツ悪そうに真田がトレイを持って入ってきた。
「シフト、無視したらユキ、怒りますよ。」
進は真田が持っていたトレイを“ありがとうございます”と言って受け取った。
「目処はついたか?」
真田がデスクにある端末を見て聞いた。進は真田にソファーを進めて自分も座った。
「えぇ…。」
進はそう返事をした後しばらく食事に専念していた。真田もエスプレッソを飲んでいた。
「真田さんが艦長だったら…土門は生きて帰ってこれたかもしれませんね。」
進が小さな声でつぶやいた。
「土門だけじゃない…揚羽も…俺がルダ女王の護衛をさせなければ…」(進)
「古代…」(真田)
「わかってます…クルーの前でこんな顔できません。」
進は食事をつつきながら話していた。食事は延々と進まない。
「俺もかつて…目を掛けたやつを失っている。」
進の動きが止まった。
「頭の柔らかいヤツでヤマトの危機も救ってくれたヤツだった。」
真田がカップを両手で包んだ。
「俺に言えるのは今、生きている人を大切にしろ、しか言えない。」
真田が真っ直ぐ進を見た。
「ユキも島もお前を心配してる。」(真田)
「真田さん…」(進)
「まぁ…俺もそのユキに叱られたクチだけどな。」(真田)
「俺も真田さんもユキには頭上がりませんね。」
進の口から“ユキ”と出て来た時の顔がとても幸せそうに見えた。
「俺たちは生きてる…死んでしまったやつは戻って来れない。俺たちが思い出
して語りかけてやる事ぐらいしかできないんだ。」
進は真田の言葉にうなずくだけだった。
「…辛くない戦いはなかった…。俺はガミラスと戦っている時は地球で
見送る側だった…それを思えばまだ救われているかもしれない…。」
地球の火器は全く歯が立たず散って行った事を言っているのだろう…真田は兄、守の戦艦の修理をした時の事を進に告白している。
「いつか…シャルバートのようになったらいいな。」
真田はそう言って笑った。
「真田さんと古代くん、どんな話してるのかしら?」
食堂でユキと島が話をしていた。
「きっと二人とも、重い荷物を確認し合ってると思うよ…少しは俺に分けて
くれりゃぁいいのに。」(島)
「島くんだって…いろいろ抱えてるでしょう?何も抱えていない人なんて
ヤマトの中にはいないわ。」
ユキの長いまつげが揺れる。
(ユキも先の戦いでは辛い思いをしてたな…そして今回は最初から生活班の
拠点が戦場となった…非戦闘員も訓練しているとはいえやはり戦闘班の動き
と違うからな…)
そう思った島は前回の航海を思い出していた。
(ユキは精神的に追い詰められて…。ユキも少し休んだ方がいいだろう)
島はそう判断しユキを自室にどう送り込むか考えたがなかなかいい案が浮かばなかった。
「一人になると、いろんな事が頭に浮かぶの。いい事も悪い事も。」
ユキがコーヒーを一口飲んだ。
「最後に思うのは…もし、あのまま息を吹き返さなかったら、なのよ…すごく
前の話、って思うんだけど…あのままだったら今ここに私はいない訳で…
そうするとサーシァとも会えなかったしあの少尉とも…古代くんだって
人生変わってるはずよね?私にとって古代くんのいない人生なんて考え
られないけどね。」
重い話になってしまいそうになったユキが敢えて明るく笑った。
「多分、ユキのいないヤマトなんて誰も想像できないよ。」
島が静かに口を開いた。
「この先どんな航海があるかわからないけど…この制服でヤマトに乗り込む時は
ユキが必要なんだ。それはアイツだけじゃなくてさ…」
島は最初の航海の時お互いけん制し合いながらの航海だった事を思い出した。
「真田さんだってユキが乗るから決心した、って言ってたし…俺たち全員
揃って始めて結果が出せる、って思ってる。」
島の優しい眼差しを受けてユキはふとテレサを思い出した。
(テレサさんが島くんの中で生きてるのね…)
ユキは涙が出そうになった。
「さて…私も少し休んで相原くんと交代しなきゃ。島くん、私、自室に戻るわ。」(ユキ)
「あぁ」(島)
ユキは食べ終わった島の食器を自分の食器に重ねると“じゃぁ”と行って食堂を出て行った。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 1 作家名:kei