yamatoⅢ 太陽制御の後で 1
「相原くん、休憩どうぞ。」
ユキが仮眠をとったあと第一艦橋に戻って来た。
「眠れました?」(相原)
「えぇ。お腹空いたでしょう?ゆっくりしてきて。」
ユキが自席に座った。相原は席を立つとユキの横に立った。
「…本当は降りたかったんじゃない?」
ユキが相原に聞いた。
「実は…本音はそう…ヤマトを早く降りたいって、早く晶子さんに会いたい
って思いました。…けど長官がお見えになってまたコスモクリーナーを
使って放射能を除去するように、って言われた時、自分はヤマトに残って
最後まで仕事を全うしたいって思ったんです。多分、古代くんほどじゃな
いけど僕もヤマトが好きで宇宙戦士なんだ、って…。地球がきれいになれば
いつでも晶子さんに会える…生きて会える…それだけで充分です。」
ヤマトに乗りこむ前に思いつめていた相原を思い出すとユキはこの一年が相原にとって乗り越える事が多かったんだと思った。
「そうね…きっと相原くんと晶子さんもなにがあっても乗り越えられるわ。
信じ合うってとても難しい事だけど誰にでもできる事…誰にでもできるけど
誰もができる事じゃないわ。私たちは誰よりも信じられる事を知っている…
それってすごい事だと思わない?」
ユキはまるで自分の事のように嬉しそうだった。
「そうですよね…」
相原は前の航海で離れていても信じ合う気持ちが起こした奇跡を思い出した。絶望的な状態から“生きている”と知った時の顔…精神が崩壊する寸前まで追い詰められたユキを支えたのは進だった。あの時の事を思えば自分の想いなんてちっぽけなものだと思えた。
「だけど相原くんは古代くんの真似なんかしないでね。」
ユキの口から思いがけない言葉が出てきた。
「私は民間人だけど軍の訓練を受けてここにいる。だけど晶子さんは完全なる
民間人…多分、今後秘書課以外の部署に留まると思うけど私とは違う…
辛抱強く待つ、とか無理だと思うわ。まぁ相原くんは優しいからちゃん
と言葉で伝える事が出来ると思うけど…私と同じ思いをさせないで。
結構不安な事、多いのよ。運よく、か悪いか秘書課にいるおかげで有事の
時は一番で情報が入る…」
ユキの言っている事はもっともだった。秘書課にいれば極秘情報だらけでできれば耳を塞ぎたい事もあるはずだ。自分に有利な事ばかりが起きるわけではない。
「なぁんてね…脅かしすぎちゃったかしら?」
死線を何度も乗り越えてきたユキは笑顔だったがその一言、一言に重みがあった。
と、そこへ南部が第一艦橋に戻って来た。
「お疲れ様。」(ユキ)
「お疲れ様です、あれ?二人だけ?ですか?」(南部)
「えぇ、みんなどこへ行ったのかしら?」(ユキ)
「俺は今ちょっと下を見に行ってきました。ユキさんは行っちゃダメですよ、
防護服を着ているとはいえ有害な紫外線、多いですから。だけど雨が降る
のを見ると感動しますね。」(南部)
除去作業の様子はビデオパネルで見る事が出来た。
「そう?見てみたいわ。」
ユキが残念そうに言った。
「病院のベッドからニュースで見てたわ…ヤマトが放射能を除去する様子を…
すごく頼もしい、って思ったけど…寂しい方が上だった。何事もなければ
私も艦内にいて一緒に働いていたんだろうな、って思ったから。
だから今回こうして乗せてもらってすごく嬉しい。仕事なんだけどなんだか
遠足に行ってるみたいで…このきれいになる様子を…土門くんにも見せて
あげたかった…ううん、土門くんだけじゃなくて…一緒に第二の地球探し
に行ったクルーに…」(ユキ)
「そうですね…」
南部もそう返事をして思い浮かべる顔がある。
「あれ?相原、休憩か?」(南部)
「そう、ユキさんと入れ替わり。」(相原)
「そうか、晶子さんによろしくな。」(南部)
「へ?」(相原)
「メールぐらいしておけよ。“地球に戻ったらすぐに会いたい、って”さ。」
南部が言う。
「え?…いや…だけど…」(相原)
「バカだな、毎日メールぐらい入れておけよ。まさか防衛軍のメール以外
知らないわけじゃないよな?」(南部)
「いや…一応ガルマンガミラスと一緒に一度地球に戻った時…携帯番号と
アドレスは…」(相原)
「お、相原にしちゃ、上出来だ。まぁ相手はお嬢様だ、困った時はいつでも
力になるよ。」(南部)
南部にも力が入る。なんせ進に続き、おもちゃがもう一人増えるのだから…
「…相原通信士、休憩入ります。」
相原は小走りで第一艦橋を出た。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 1 作家名:kei