yamatoⅢ 太陽制御の後で 3
夜は晩さん会が行われる予定だった。ヤマトのクルーも全員招待されていた。服装は男性はタキシード、女性はドレスとなっていたがユキは敢えてドレスではなく着物を持って行った。
母が代々受け継いだ正絹の振袖。華やかなドレスとまた違った華がそこにあった。深い藍色の染めの着物に浮かび上がる様な百合の華が繊細に描かれ見る人のため息を誘う。帯はシルバーブルーに光り雲の柄が入った華やかな物だった。そして軽くショールを羽織っている。
ユキは当日これを着るために着付けを習おうとしたが時間がなかったので須藤悠輝に相談してすぐに着れるよう、うまく加工を施してもらった。ユキが当日着物を着る、とメインクルーに報告があったので(リークしたのは南部)メインクルーは羽織袴で出席した。
用意に時間がかかるのでホテルのロビーで待ち合わせしていた。男性陣は紐を止めるだけなので準備が早い。遅刻したわけではないがユキが一番最後に合流した。
「ユキ、似合ってるなぁ。」
島が顔を見てすぐに言った。
「ありがとう。みんなもすごいわね。よく揃えたわねぇ。」
ユキが感心していうと
「南部に作れないものはございません。アパレル業界もお任せでございます。」
南部が自慢げに言う
「お前が威張るな、親父さんの会社だろう?」(島)
「ごもっともで…」(南部)
「だけど南部くんに相談すると…こうなるのね。」
ユキは南部に着物を着たいけどどこに相談したらいいかわからないと伝えた。南部はすぐにいとこに相談してユキの実家へ一緒に行って着物を選びすぐに着れるよう加工するために持ち帰ったのだった。着物も帯も切らずにうまく加工してワンタッチで着れるようにしてくれた。
晩さん会の会場へ向かうためにホテルを出てエアカーに乗った。
会場のホテルに入ると誰もがため息をついた。“着物”を見た事のない人が多い時代だからかもしれない。着物の団体はとにかく目立つ。ヤマトの一般のクルーも珍しそうに見ていた。
ユキはフロントに寄りショールを預けた。すると係員が来て控室へ案内してくれて時間になったら迎えに来ます、と言って部屋を出て行った。メインクルーはコンドミニアム風になっている部屋をあてがわれた。
「今日は来賓だからアルコール解禁ですって、知ってた?」
ユキがソファーに座りながら言うと
「そうなの?聞いてないよ?」
と南部が即答した。
「あら?そうなの?私は長官からいつもグレープジュースだけど今日は
ワイン飲んでもいいぞ、って。まぁほどほどに、って事は判っている
と思うけど…」(ユキ)
「太陽のせいでたいしたアルコールは残ってないかもしれないけど…少し
くらい楽しんでもいいんじゃないか?」(島)
「そうだな…ちゃんと日本酒、用意してあるかな?佐渡さん暴れちゃうぞ?」
相原が心配そうに言う。誰もがその一言に頷いていた。
しばらく雑談しているとノックの音がして先ほどの係員がクルーを呼びに来た。ぞろぞろ歩いて会場に入ると眩しいほどのライトが会場を照らしていた。係員はクルーの席まで案内すると“お座りになってお待ちください”と言って出て行った。袴の団体がずら~っと座ったのでそこだけ空気が違った。ユキは長官が座るであろうかなり上座に案内された。
それから間もなく藤堂も来て来賓が揃ったところで大統領がファミリーを従え入ってきた。ひとりひとり挨拶しながら席に向かう。大統領の傍にいるマークの視線がユキから離れる事はない。メインクルーはそれを見逃さなかった。
晩さん会は粛々と進み食事を交えながら歓談の時間となった。ユキは秘書としての仕事があるので食事してる暇はない。各国のVIPが藤堂に挨拶に来る。藤堂が別の人と話していればユキが対応する。相原から教えてもらった言葉がこんな時役にたつ。通訳は使わず全てのVIPの対応ができるからだ。ヤマトのメインクルーはその姿を食事しながらぼんやり眺めていた。
「本当にユキさんは才女ですよね。古代くん、早く決着付けないと誰かが
さらっていっちゃうよ?」
相原が軽く結構重い冗談を言う。島にも言われた事だ。食事が一段落済んだのか会場の照明が少し落ちてワルツが流れ始めた。フロアーではプロのダンサーが数組、ワルツを踊っている。少し酔ったVIPがパートナーとダンスフロアーに行って踊る人もいた。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 3 作家名:kei