yamatoⅢ 太陽制御の後で 3
ユキと進の視線が合った。藤堂の所へくる人も減って
「ユキ、ここはもういいからみんなの所へ行って食事をとりなさい。」
と、藤堂が言ってくれたのでユキは席を立った。
「ありがとうございます、長官。」
ユキは素直に藤堂に頭を下げると進たちの所へ移動しようとした…がその時マークがユキを呼び止めた。
「ユキさんきれいなお着物ですね。だけど残念です、いつも断られてた
ダンスを今日は絶対に、と思っていたので…」
マークが本当に残念そうに言った。
「本当は私の誘いに乗らないためにお着物にされたのですか?」
マークの口調が少しきつい言い方になった。
「ワルツですか?すみません、前にも申し上げましたけど私は踊れません。
それに…お着物なんてご覧になった事ないでしょう?」
ユキは真っ直ぐマークの眼を見ながら言った。
「あなたの瞳はいつも真っ直ぐ…今、あなたは私を見ているけどあなたの
心は私に向かっていない…それはわかってますが…今日、一晩だけ
私に時間を割いてくれませんか?」(マーク)
「それは出来ません。」
ユキはきっぱり言った。
「私にはフィアンセがいます。この会場にいます。わかってらっしゃる上で
そうおっしゃる意味が分かりませんわ。」(ユキ)
「わからない、とおっしゃいますか?分かってらっしゃいますよね?
私があなたの事をお慕い申し上げている事…私はあなたの事を愛して
います。あなたのフィアンセに負けないぐらいあなたの事を愛しています。
それがあなたに通じない…こんな辛い事はありません。」
外人は表現もオープンだ。
「人の気持ちは量れませんわ。ごめんなさい、私はあなたの気持ちに応える事は
出来ません。」
ユキは言い切った。
「すみません。」
ユキとマークが話してるところへ声がかかった。振り向くと進だった。
「私のフィアンセに何か?」
鋭い視線だった。ユキは進の後ろに隠れるように移動した。
「お前に用はない。私は森さんに用事があるんだ。だいたい結婚していない
のにどうして出てくるんだ?関係ないだろう?」
マークの言葉に進は一瞬動揺した。
「ずっと婚約したままで…他にいい女がいないか漁ってるんじゃないのか?」
ユキは震えている進の右手をそっと包んだ。
「結婚を延ばしてるのはまだ地球が落ち着かないからなんです。古代くんの
せいじゃないわ。マークさんだってお父様を近くでみてらしゃったでしょう?
地球が大変な時にご自宅にいらっしゃいましたか?家族と一緒にいましたか?
多分、中央に詰めていてほとんどご自宅に戻らなかったと思います。
私達も同じです。それに私たちは同僚の屍を越えて戦ってきました。
ついさっき、一緒に食事していた同僚がいなくなってしまう、そんな
状況で…地球に戻って来てすぐに式を挙げる事なんてできません…。」
メインクルーは三人をじっと見つめていた。フロアーはタンゴが流れダンスの参加者が増えてこちらを見ている者はいない。
「あなたは不幸な人だわ。古代くん行きましょう。」
ユキがマークに強く言うと進の右手を引っ張ったが進がユキの手を離した。
「ユキに何かあったら命がないと思え。」
進が戦闘オーラ全開で静かに言った。マークは数分前の進との豹変ぶりに驚き声も出なかった。進はそれだけを言うとユキに“行こう”とだけ声を掛けてマークの前から離れた。
「古代くん…」
「大丈夫…ユキは俺が守るから。しかしこれだけの事があったのに危機感が
全くない…」
進は復興に酔いしれる事に危機感を持った。
「デザリアムとの戦いの二の舞がない事を祈るよ…。」
少し遅れて歩くユキに気付いた進は2.3歩戻りユキの手をそっと握ってメインクルーの席に戻って来た。
「やっこさん、しつこいなぁ。」
進とユキが席に着くなり南部がつぶやいた。
「あいつはいつも声を掛けてくるのか?」
島がユキの顔を見ながら言った。
「えぇ、大領領の息子さんだし…秘書官だからね。」
ユキは“しょうがないわ”という顔をした。
「しっかし…どうなんでしょう…優雅に踊ってる場合じゃないと思うんで
すがねぇ…今、奇襲攻撃を食らったらひとたまりもないですよ。」
南部がシャンパンを眺めながらつぶやく。
「もう、過去の戦いは忘れてしまっているのでしょうか?」(太田)
「そうかもしれないな…覚えてるのは一般市民と俺たちだけかもしれないな。」
南部がシャンパンを一気に飲んだ。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 3 作家名:kei