yamatoⅢ 太陽制御の後で 3
翌日、帰路につく予定だったクルー達はジェットの時間まで自由時間が与えられた。地上は今復興ラッシュで建物と公園と人の動きが忙しかった。
進とユキは久々にふたりで散歩に出かけた。ゆっくり歩いていると出来上がったばかりの小さな公園がありそこで花を植えている人たちを見た。
「土の具合はどうですか?」
進が作業してる男性に声を掛けた。
「おや?コッチの人じゃないねぇ…観光?(進が首を振る)仕事か。
いい土だよ。最初は固くて大変だったけど結構雨が降ってくれたからね。
ヤマトのおかげだよ。」
進とユキは思わず顔を見合わせた。
「今、コッチに来てるんだよね。いろいろあったけどさ、こうして土を
いじる事が出来るのはヤマトのおかげ。感謝しなきゃね。」
男性は進とユキの顔を一瞬だけ見ると視線を手元に戻した。
「昔は大きな畑を持っててさ…小麦とかトウモロコシを栽培したもんさ。
復興計画がうまく進めば三か月ぐらいしたら地元に戻れるかもしれない。
そしたらまた畑を耕して小麦とトウモロコシを作るんだ。」
男性は嬉しそうに語る。
「息子にも…見せてやりたいんだ。地球はすごい星なんだ、いろんな事が
あって征服されかけてもこうして生きていてる、ってね。」(男性)
「息子さんはおいくつですか?」(進)
「あぁ、8歳だよ。」
男性が進の方を見て答えた。
「産まれた時は地下都市で…それから何度か地上に戻ったけどすぐに地下に
出戻りさ。だから“畑”を知らないんだ。土に植えた種が芽を出して
花を咲かせて実になってそれを食べる…という事頭で分かってるだろう
けど実際見た事がないんだ。だからいつか元の所で畑をやって本物を
見せてやりたいんですよ。今は土いじりの予行練習。少しでも土をいじっ
てるとなんだか安心するんです。」
男性は再び土に視線を戻した。
「そうですか…作業中、失礼しました。」
進がそう言うと
「いや、私の方こそ…つい嬉しくて…」
男性はにっこり笑った。ふたりはその男性に頭を下げると再び歩き出した。
「公園一つにしてもいろんな人の手で作られてるのね。」(ユキ)
「そうだね…」(進)
「一緒に作業しちゃうかと思った。」(ユキ)
「俺が?」(進)
「うん、だって好きでしょう?ヤマト農園でも大活躍だし…」(ユキ)
「大活躍、って程じゃ…」(進)
「今の家族寮じゃお花なんて無理だしね…」
ユキは地上勤務だがヤマトが出航するとなるとユキも乗り込むようになる。その事を考えると生き物を育てる、事は無理だった。
「なぁユキ、三浦の実家なんだけど…地下都市じゃなくて…地上なんだけど
もし権利書が有効だったら家を建てようと思うんだ。」
ユキは進の顔を見た。
「海の傍でさ…裏は山。環境抜群。軍に籍を置いてる間は別荘扱いに
しても
いいし…ユキのお父さんとお母さんに鍵、渡していつでも泊まれるように
してもいいし…。庭にたくさん花を植えよう。季節毎に花が咲くように
世話しよう。」(進)
「だけど私も行けば(宇宙へ)世話できないわ。」(ユキ)
「その時は人の手を借りよう。いいじゃないか?それぐらいの贅沢しても。」
ユキがまだ驚いた顔をしている。
「お金なら心配ないよ。父さんと兄さんの残したお金、全部そのままだから。
俺も余りお金使ってないし…」(進)
「それは古代くんの大切なお金じゃない。」(ユキ)
「そう、大切なお金だから二人の為に使いたいんだ。それにユキの両親に
使ってもらっていいしあいつらとゆっくり話せる場所になればそれは
それでいいと思うし…。」
歩き続けて気付くと真っ赤な砂漠地帯が遠くに見えた。
「俺たちも…夢を持っていいと思う。」
二人は立ち止まると地平線の先の太陽を見た。
「何度も待たせてゴメン…この戦いの喪が明けたら…結婚しよう。」
進が太陽からユキに視線を移した。ユキも進の眼を見つめる。
「…いいの?私で?」
ユキの瞳に涙が溢れそうになる。
「ユキの方こそ…俺でいいのか?」
進が聞く。
「古代くん…」
ユキは進の胸に飛び込んで頷いた。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 3 作家名:kei