yamatoⅢ 太陽制御の後で 4
輸送船団は予定通り地球に到着した。一般の乗組員から下されて最後艦長の進が降りてきた。
「古代艦長、お疲れ様でした。」
今到着したのか少し息を切らせて女性がドックに入ってきた。
「先に島船団長に会って来ました。航海、お疲れ様でした。無事何事もなく?」
敬礼する姿も決まっていた。後ろ姿しか見えないが凛とした空気を感じる。
「ユキ…出迎えありがとう。今日は?」
進の声もいつもと違いとても柔らかく感じる。
「長官が古代艦長と一緒に上がっていいって。団長が食事でも?って言った
からどうしようかな、って悩んでる所!」
ユキが嬉しそうに言うと
「島が?ダメだ。わかった、それは明日にしよう。俺から連絡入れておく。」
進は速攻携帯を取り出してメールを打つ。
「古代くん、どうするかな、って言った後島くん、笑いながら“じゃぁ
明日な”、ですって。」(ユキ)
「わかってるなぁ…」(進)
「さぁ業務は終わり…帰りましょう?沖田艦長が待っているわ。」
ユキは辺りに誰もいなくなったのを確認して進の左腕に自分の右腕を絡ませ静かにドッグを出て行った。
……そっと二人の寄り添う姿を影から見つめる美樹。
「わかっただろう?あの二人の間に入り込む事なんかできないんだ。」
美樹の後ろから声がした。その声の主は中野だった。
「だって、私の方が若いのよ?女性は絶対若い方がいいんだから!
今は一番じゃなくてもいつか一番になれるかもしれなじゃない!」
美樹は自分の大きな声に驚いて慌てて口を塞いだ。
「絶対…あの事人に言うな…古代艦長だけじゃない…傷つくのは…森秘書官も…
そしてお前も…。」
中野はそう言うともう一度忠告した。
「お前の心の中に少しでも“申し訳ない”と言う気持ちがあるなら…絶対に
言うな。秘密を守り通せ。」(中野)
「知らない!」
美樹はいつもちやほやしてくれる同期が冷たい事にむっとしていた。
(やはり男性はもっとキレイな人が現れるとそっちに向かってしまうのね!)
美樹はいらいらした様子のままドッグを後にした。
「古代くん?」
なかなか食事の進まない進にユキが声を掛けた。
「ん?」
我に返ったように進がユキの顔を見た。
二人は家族寮に戻り食事をしていた。ユキは久しぶりだったのでどこかでお酒でも飲みながら、と思っていたが進が家に帰りたいと言ったので英雄の丘を後にして食事をテイクアウトして戻って来た。
「疲れてるみたいね。食欲がないなら寝た方がいいわ。」
ゆきは立ち上がりキッチンでお風呂のシャワーの温度を確認した。
「ちゃんと40度設定になってるわ…お湯張る?」
進は何も答えずユキをじっと見つめていた。ユキはお風呂の湯はりのスイッチを押した。
「もう、古代くん?大丈夫?……ずっと変よ?何かあったんでしょう?」
ゆきが進の横に膝を立てて座った。進は美樹の事をいつ切り出すか考えていた。
「10分くらいしたらお風呂、入れるわ。」
ユキが立ちあがると進も立ち上がって後ろから抱きしめた。
(何があったのかしら…)
いつもより荒々しく愛されたユキは湯船の中で自分の身体を見た。あちこちに花咲く赤いしるしが進に何かあった事を告げている。最後にもらったメールも気になっていた。
(明日、島くんに任せよう…)
ユキは静かに湯船から出た。
身体を拭いてバスローブを羽織りリビングに戻ると進がソファーで寝ていた。いつもは飲まないウィスキーの栓が開いていてグラスに半分ほど琥珀色の液体が入っていた。大きな氷が二つ入っていてゆらゆら溶けている様子が見えた。
(自分ではどうしようもできない事があったのね…女性かしら?)
何も言わない進の気持ちを詮索しながらウィスキーの栓をしてグラスをキッチンに下げた。そして寝室から肌掛けを持ってきてそっと掛けた。
(私を傷つけまいとしてるのね…。きっと訓練中のアクシデントなら話して
くれるはず…)
ユキはリビングの照明を落とすと携帯を持って別の部屋で島に電話をかけた。
「あ、島くん?」(ユキ)
<おう、ユキか。いいのか?夜はこれからだぞ?>
島のいたずらっ子の様な顔が面白くユキは笑ってしまった。
「古代くんなら寝てるわ。疲れてるみたいでソファーでね。」(ユキ)
<なんだぁ?久し振りなのになぁ…全くあいつは…じゃぁユキ、これから
どこか行くかい?>(島)
「そうね…」(ユキ)
絶対否定すると思ったユキの表情が暗くなったので島は何かあったのだと思った。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 4 作家名:kei