yamatoⅢ 太陽制御の後で 4
「へぇ…残念だな。」
島が本当に残念そうにつぶやく。
「地球連邦の大統領の指名とあったら…防衛軍司令長官と言えど断り切れ
なかった、って事か。」(島)
「そんな所だ。」
進と島はビールを軽くあげて乾杯した。
「何に乾杯なんだ?」(島)
「サシで飲む…事か?」(進)
「そんな所かな。」(島)
「今頃ユキはきれいなドレス着て一緒に猫も着てるのかな。」(進)
「そうだな、シャム猫かロシアンブルー?ってところか?」
島がイメージするのはしなやかで細いスタイリッシュな猫。進もそのイメージに納得した。
「そうだな、ふさふさした猫じゃないな。」
進もそう言って笑った。
「さて…本題に入ろうか…何があった?」
島が真剣な顔になった。進が一瞬島の真っ直ぐな視線を反らす。
(ユキの言ってる事が当たってるかもしれない。自分から視線を反らす事
ほとんどないからな。)
島は視線を反らさない。進は大きなため息を一つつくとゆっくり話し始めた。
「イオからさ…乗って来た林田、って女性の艦載機のパイロットがさ…
俺も悪いんだ、つい面倒見ちゃったから…」
進がバツ悪そうに話し始めると
「厳しい訓練しちゃったんだな?」(島)
「あぁ…履歴を見た…厳しい訓練を乗り越えて来たのにその後の訓練が
ガサツで…今回月に赴任するためにイオを出て…俺の艦に乗って一度地球に
戻りそれから月面基地に行く予定なんだが…この月での成績如何で林田は
艦載機のパイロットをクビになるかもしれなかったんだ。同じ訓練学校を
出てたから…どうしてもパイロットとして頑張ってほしくて…林田も
毎日訓練室に通って頑張ってたんだ。だけど…」(進)
「だけど?」(島)
「大きな誤解をしていた。」(進)
「誤解…」
島はなんとなくそれで察した。訓練中の進は男性、女性と分け隔てなく教える。勘違いする女性がいてもおかしくない。
「お前まさか油断して押したおされたりしなかっただろうな?」
冗談交じりで島が言ったが進は笑ってなかった。
「まさか?」(島)
「最後までは、ないぞ?ただ…」
進の声が小さくなる
「ただ?」(島)
「キスされて…押し倒された。」(進)
島は何も言わず首だけ振った。
「古代、お前余程油断してたんだな…油断と言うか…訓練に集中してて
そこまで気が回らなかったんだろうけど…」
島がため息をつきながら話を続ける
「向こうが騒ぎ立てたら証拠がないからセクハラ、パワハラで訴えられる
かもしれないな。」
島の言葉に進が固まる
「女は怖いんだぞ?古代はユキしか見てないから余り考えないだろうけど…」
島の頭はフル回転を始めた。
「訴えるか…うわさを流すか…どっちかだろうな。」
島がつぶやくように言う。
「この事…ユキに?」(島)
「まだだ…話そうと思っているんだけどなかなかきっかけがつかめなくて…」
進が深くため息をついた。
「この事、ユキに正直に話した方がいい。もし噂話を流すとしたら真っ先に
ダメージ食らうのユキだからな。」
島は思いつめたユキの顔を忘れられなかった。
「話した方がいいか?」(進)
「ユキはお前の事を何があっても信じるだろう。」(島)
「…わかった…帰ってきたら話すよ。」(進)
「人から聞くのと自分で聞くのとじゃ大違いだ。絶対に本人から聞いた方が
いいに決まってる。」(島)
「…あぁ~なんでこうなっちまうんだ…」
進が肩を落とす。
「女は自分が世の中の中心だと思ってるやつが多い、って事だよ。まぁ今回は
同情してやる。」
島はそう言うとビールを頼んだ。
「今日は俺がおごるから…飲めよ。」(島)
「…ありがとう。」
進は肩を落としたままビールを飲み干した。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 4 作家名:kei