yamatoⅢ 太陽制御の後で 5
「ふむ…」
真田は腕を組んで考えていた。どうやってこの噂を消すか…中野は自分がこのメンバーの中にいる事が信じられなくてそわそわしていた。
「中野は林田と話したのか?」(真田)
「ドッグで艦長と森さんが話してるのを影から見ている林田がいたので少し
話しましたが…あいつ、感情的になると何言っても聞かないんです。」
中野がため息交じりに言った。
「私、その噂を聞いた時“それ、反対だから、林田が仕掛けたんだ”って
言ったんですけど…誰も信じてくれなくて…」
中野の肩が落ちる。
「さて…どうやってこの噂を切り抜けるか、だな。林田はもう月面基地に
向かったのか?」(島)
「いえ、まだです。久しぶりの地球なので実家に戻ったり、で一週間程
有給を消化すると言っていました。」(中野)
「じゃぁ戻ってきて…月に向かうまでに何とかすりゃぁ…」(南部)
「だな。」(島)
中野はこの団結力を見て驚いた。
「俺たち…真田さんは違うが…それ以外は同期だ。ヤマトのクルーと言う
くくりもあるけど…ユキを含めて…同期なんだよ。誰かが苦しい時や
辛い時は一緒に乗り越える…俺たちにとってそれは当たり前の事なんだ。
だからこれが特別な事じゃないんだ。」
相原の言葉に誰もが頷く。中野は恥ずかしくなった。自分の同期がとんでもないデマを流している事が…
「私にできる事、なんでも言って下さい。何でもします!」
中野がそう言った瞬間進の通信機が鳴った。
「…はい、古代です。」
進が相手を確認して出た。
「…はい、では1時間後に…」
短く用件だけ言ったようですぐに通信機を切った。
「誰だ?」(島)
「防衛軍の幹部だ。」(進)
「噂の事か?」(真田)
「かもしれない…前以って俺から話を聞こうとしているのかもしれない。」
進はそう言うと大きなため息をついた。……と、その時真田の携帯が鳴った。
「ユキだ。」
真田が短くそう言うと携帯に出た。
「どうした?」(真田)
<真田さん、どうしよう…古代くんが…古代くんが…あんな噂を信じた幹部に
呼ばれて…私、何もできない…どうしたらいいの?>
ユキの顔色は真っ青だった。進から話を聞いているとはいえ自分の身に起きた事もあって心をどう、整理したらいいかわからずにいた。
「ユキ、落ち着くんだ…いいか?あれは林田が流したデマだ。だけどそれを
証明するのは難しいだろう。だけど必ず手はあるはずだ。ユキ、古代を
信じてるなら慌てるな…それが相手の思うつぼかもしれん。いいか?ユキは
古代を信じています、と言う顔をしていなさい。いいね?」
真田が言い聞かせるように話すとユキは落ち着いたのか
<すみません…私ったら…>
と言って深呼吸をした。
「いいや、大変な時に大変な事が重なってしまっているんだ…ユキは普通だよ。
その感情を殺せ、と言っている俺がおかしいんだ。……長官はどうしてる?」
真田の問いに
<長官は大統領の方で…>
ユキがそう答える。別の対応で忙しいのだ。
「ユキ、佐渡さんの所へ行くか?」(真田)
<いえ…大丈夫です。今ここで私がいなくなったら噂に負けて医務室に
逃げた、ってなるじゃないですか。私は大丈夫です…。>
ユキが力強く言いきった。
「わかった…だけど無理するなよ。」
真田が優しく言う
<了解です。お忙しい所すみませんでした。>
ユキはそう言うと携帯を切った。
「健気だなぁ…ユキさんは…古代に掛けたいけど大変だから心配かけまいと
真田さんに連絡してきたんですね。」(南部)
「多分な…古代…」
真田が南部の顔を見た後進の顔を見た。
「本当のことを話してこい。自分の身を守れ。それはユキを守るのと同じ
事だ。ユキもきっといろいろ言われてるだろうから…」
真田の言っている意味が中野にはわからなかった。
「女性は興味本位でいろいろ言うからな…ましてユキは第一秘書…古代の
行動如何でその第一秘書を下されてしまうかもしれないからな。」
中野は同期の身勝手な行動がそんな所まで響くとは思っていなかった。
「そんな…」(中野)
「世の中…上のものを引きずり下ろしたいと思っている輩はゴマンといる
のさ。俺たちは防衛軍の眼の上のたんこぶ、的な存在だから…」
太田がつぶやく。
「僕たちは単純に地球を救うために動いただけだけど…ね。」
相原がにっこり笑う。中野は防衛軍の組織の中にもドロドロしたものがある事を初めて知った。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 5 作家名:kei