yamatoⅢ 太陽制御の後で 6
「ユキ」
ユキは藤堂に呼ばれて長官室に入った。
「お呼びでしょうか?」
ユキが敬礼して藤堂の前に立った。
「今日、輸送船団が戻って来る日だな、私の代わりに出迎えてほしい。
で、ユキは今日、それで上がっていいから。」(藤堂)
ユキはハッと我に返った。
「長官、私何か…」
ユキは自分が気付かない所で失敗したのかと思い藤堂に聞こうとした、が…
「少し…顔色が悪い。古代がいない間無理をしただろう?今日、この後
伊藤君と回るから心配しないで帰りなさい。明日の有給は受理してるから
安心して休みなさい。古代が3日間、休みのはずだ。合わせて休みなさい。
有給の申請はこちらで延ばしておくから…。」
藤堂が笑顔で言った。否定しようとしたユキに藤堂は優しく言った。
「あの時と同じ顔になっている時がある。ユキはあの時よりマシ、って
思っているかもしれないが…身体は正直だ。無理をしないで休みなさい。
もしユキが倒れて…晶子から妻に話が行ってしまったら私はまた妻に
怒られてしまうしな。」
ユキは自分の無理が周りに迷惑をかけた事を思いだした。
「長官…」(ユキ)
「私にはこれぐらいしかできないのだよ。いいから…休みなさい。女性に
したら大きな事件がふたつも一気に起きてしまったんだ。自分が思っている
より心はダメージを受けているはずだ。さて、後30分したら伊藤が来る。
もう、行きなさい。古代を待たせてしまうぞ?」
藤堂が優しく出口を指さした。
「すみません…」(ユキ)
「いいんだよ…強がらなくていいんだ。私にもたまには甘えてほしいものだ。」
ユキは藤堂の優しさに甘える事にして敬礼して長官室を出て秘書のデスクをキレイにして時計を確認した。
(いけない…もう入港してるはず…急がないと…)
ユキは端末にロックを掛けると急いで出かけて行った。
「お疲れ様でした。何事もなく?」
ユキはいつも通りの笑顔で進を迎えた。護衛艦から降りてきた進は相原と一緒だった。
「あぁ、何事もなさ過ぎて…退屈だったよ。」
進が相原に同意を求めると
「だけど訓練つき合わされて大変でしたよ。真田さんバージョンは本当に
体力勝負なので僕はきついんです、って言ってるのにステージMAXにする
もんだから…あちこちあざだらけですよ。」
そう言いながらも相原は笑っている。
「ユキさん、顔色少し悪いですよ?アカンベーしてみてください。」
相原が自分の眼でアカンベーをするとユキもアカンベーした。
「ほら、目の粘膜真っ白です。貧血ひどいはずですよ。もともとユキさん
貧血気味ですから…きっと佐渡さんがその顔を見たら輸血しようって言い
だします、って。いいですか?栄養とってゆっくりするのが一番です。
古代くん、いい?分かった?」
相原が古代に詰め寄る。
「とにかく“おいしい物”食べて…ね!」
相原はいつも進と同じ艦に乗ると一緒に英雄の丘に行くが
「ちょっと本部に寄って帰りますから!」
と気を利かせて二人にしてくれた。
「大丈夫か?」(進)
「平気よ。」(ユキ)
ふたりは英雄の丘に来ていた。
「静かね…」(ユキ)
目の前に立つ沖田の像の前のベンチに座って海を眺めていた。
「ユキ、結婚しよう。」
進が突然ユキの手を握って言った。ユキは驚いて進の顔を見た。
「喪が…」
ユキが言いかけたが進はそれを遮った。
「死んで行ってしまった仲間には悪いと思うけど…俺はやっぱりユキの方が
大事だから…辛い時にそばにいればいい、ってもんじゃない、って…」
進は深呼吸して静かに言った。
「ユキ、結婚しよう。籍を入れて…ユキは古代ユキになるんだ。仕事で
都合が悪ければ“森”でもいいよ。だけど戸籍上は古代ユキ。」
進がユキの手を握った。
「返事を聞かせてくれる?」
進の問いにユキは驚いた顔をしたまま
「返事も何も…私達、婚約してるのよ?」(ユキ)
「ずっと待たせたから…二度目のプロポーズになっちゃうね。それとも
誰か気になる人がいる?」(進)
「いるわけないじゃない。私はずっと古代くんだけを見て来たわ。」
ユキはそう言うと瞳にいっぱいの涙をためながら進をまっすぐ見た。
「嬉しい…こちらこそ、よろしくお願いします。」
進はそっとユキの唇にキスをした。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 6 作家名:kei