yamatoⅢ 太陽制御の後で 7
「モリタ君からメールが来てた。古代は制服がクローゼットに入っている事
知っている、と。後は古代の気持ち次第だ、とな。」
ユキはやっぱり狸寝入りだったんだと思った。
「何を悩んでいるのか…悩んでる暇があったらヤマトに来い、なんだが…」
佐渡はそう言って一口日本酒を飲んだ。
「古代くんはきっと来ます…ヤマトが古代くんの体調を完ぺきにしてくれる
と思います。」(ユキ)
「そうじゃな…きっとヤマトが古代を治してくれるな。」
佐渡はうんうん、と頷きながらもう一口飲んだ。
ユキは進の部屋に向かいいつ来てもいいようにセッティングして自分の部屋に向かった。
「ふぅ…」
持ってきた荷物をベッドの上に置いてユキもベッドの上に座った。深いため息を一つついて荷物を開いて画びょうを刺して蝶の標本を壁に掛けた。
「うん、きれい。」
以前、三浦に行った時進にもらったものだ。
{うわ…すっごいきれいな羽…}(ユキ)
{それ?気に入った?}(進)
{すっごい大きい…これも本物?}(ユキ)
{そう、すごいでしょう?ここまで大きいのはなかなかなくてね}
まだ付き合い始めて間もない頃、奥の部屋で段ボールに入ったままの標本を見ていた。
{気に入ったなら持って帰っていいよ。}(ユキ)
{え?}(ユキ)
{だってユキが持っててもいずれ戻って来るだろ?}(進)
進はユキにプロポーズを済ませていて将来一緒に住む時に自分の所に戻って来る、とそう言う意味で言った。もちろんユキも意味が分かったので
{そうね…だけどここに置いておくわ。}(ユキ)
{え?どうして?}(進)
{だって古代くんも気に入ってる蝶でしょう?}(ユキ)
{いいんだ。}
進はユキの顔を見て笑顔で言った。
{もっときれいな蝶を捕まえたから。言っただろ?すごい競争率だった、って}
ユキはあの時の自分だけに向けられる笑顔がとても嬉しかった。
ユキの瞳から一筋の涙が流れる。
(古代くん…早く来て…ここに来ればみんないるわ。)
「幕の内さん?」(ユキ)
ユキは“ヤマト亭”の厨房に顔を出した。
「おや、あれ?」
幕の内はユキの艦内服を見て驚いていた。
「生活班、卒業ですか?」(幕の内)
「今回は短期戦だからね。」(ユキ)
ユキは沖田艦長と同じ色の艦内服を着ていた。
「ところで進くんはどうした?」(幕の内)
「まだ…入院中です。」
ユキの言葉に幕の内は“そうか…”と言って下を見ていたが
「生活班長、食事済ませましたか?」
幕の内は顔色の悪いユキをみて
「…食べたり食べなかったり、でしょう?顔色悪いですよ。ちょうど今
温野菜を作っている所なので胃に優しいサラダ作りますからちょっと
待ってください。」
幕の内はそう言うと厨房に戻って行った。しばらくして“休憩に入るから頼むな”と声がして幕の内が出てきた。トレイには温野菜サラダと暖かいうどんが二人分乗っていた。
「うどん、だし汁しか入ってないから…ご自身でお醤油は調整して食べて
ください。」
幕の内が少し離れたテーブルに食事を並べる。
「なんだかちぐはぐのメシだけど…胃に優しそうでしょう?…さて、っと…
(お互いいすに座る)いただきます。」
幕の内が手を合わせるとユキも一緒に手を合わせた。
「おいしい…」
温野菜もふんわり軽い塩味だけ、うどんからは食欲をそそりそうなカツオのいい匂いがする…ユキはテーブルに置いてあるお醤油を少したらしていただいた。
「幕の内さんは私の顔見ると全部わかっちゃうみたい。」
ユキはかぼちゃを一口。ほくほくして甘い。
「そうですか?」
幕の内はひとつひとつの素材を味わいながらニコニコしている。
「この温野菜見てると第一艦橋みたいだと思いませんか?」
幕の内がニンジンを口に入れた。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 7 作家名:kei