yamatoⅢ 太陽制御の後で 7
進は重たい足を一歩一歩前に進ませて歩いていた。誰もが進と反対方向に走っている。
「あわてずゆっくり地下都市へ避難してください!」
あちらこちらで公務員だろうか、大きなスピーカーを持ちマイクを片手に叫んでいた。進はヤマトの制服にジャケットを重ね歩いていたので地下都市と別の方へ歩いていても誰も声を掛けない。中央病院と軍は目と鼻の先だがヤマトが係留されている秘密ドッグはまた別の場所にあり一部の人間しか知らなかった。入江から随分奥まっているので急襲された時も被害はなかったが物資の輸送が遅れ修理が遅れていた。
しかし入院していた進がそんな事知る由もない。
ただヤマトに会いたくて…ヤマトに乗れば本当の自分になれるとそう思って必死に歩いていた。
「海だ…」
途中、英雄の丘を通った。眼下に広がる港からはくすぶった煙が立ち上っていた。進は沖田の銅像を見上げ敬礼するとその海の方へ向かって歩き出した。
少し離れた所に秘密ドッグの入り口がある…
ここは暗黒星団帝国と戦った後、クルーの希望で英雄の丘からドッグに移動できる手段を作ってもらった場所。
(あの時もユキが助けてくれた…)
身分証明書はユキがポケットに入れておいてくれていた。その身分証明書をスキャンすると指紋認証の最初のロックを解除しその後顔認証させる。数秒して秘密ドッグへの扉が開いた。進は周りに誰もいないのを確認すると暗い階段をひとつひとつ下りて行った。
「明日…出航?」
進は太助と山崎の言葉に驚いた。二人とも何も知らない様子で進に話しかけている。進は申し訳なくなりエンジンルームを後にした。通りかかった中央作戦室で聞きなれた声がした。
「古代!」
島と真田がミサイルの防御システムで話していた。それでも随分形にはなって来ていたが実用化するのに設計でつまづいていた。
「お前、辞表出したんだってな。ヤマトもみんなも寂しがるぞ?」
真田はお前がいてこそヤマトだ、と言いたかった。…が、進は自分の事は何も言わず足早に中央作戦室を出た。
「あいつ…どうするつもりなんだ?」(島)
「まぁ…少し様子を見よう。ヤマトの制服を着てると言う事は“乗る”用意を
してる、って事さ。」(真田)
「後で様子を見に行きます。」(島)
「そうだな…話を聞いてやってくれ。俺は下でもう少し改良できるかやって
みる。」(真田)
「しかし…ユキの“網”がヒントになるとは思いませんでした。」(島)
「そうだな、誰もが驚いていたよ。だけどあれだけのミサイルを全て、と
なればそれが一番確率が高い。だが今までにないない物を作るんだ…かなり
難しいよ。」(真田)
「頼みますよ…全部よけるのは無理だと思いますので…」
島はそう言って難しい顔をした。
Tweeen
軽い電子音で第一艦橋の扉が開いた。進はその見慣れた風景を一番最初に見た時の事を思いだしていた。“古臭いメカ”だいぶ中身は変わったけどやっぱり古めかしい…
その思考を遮るかのように人の声が聞こえたり電子音が鳴ったりする。
(ヤマトは生きているんだ…あの絶望的な状況から生き返ったんだ…
俺も…生きている。命がある限り…俺もヤマトも戦わなくてはいけないんだ)
進は自分の席をそっとなでて座った。誰にも譲れないこの場所…俺の場所…
(俺は…お前に別れを告げてしまった…いち乗組員でいい…地球の為に
一緒に戦わせてくれ!)
進の眼に熱い涙がこみ上てくる…………と、その時…
“そんなにヤマトに戻りたいか?古代!”
沖田によく似た声が聞こえた。進は我に返り後ろを振り返った…が、そこには沖田のレリーフがあるだけでその後なにも聞こえなかった。
(空耳か?沖田艦長に縋りすぎて…俺はおかしくなってしまったのか?)
呆然と沖田のレリーフを眺めていると島が入ってきた。
「古代…よかった。戻って来てくれて…体調はどうだ?顔色悪いぞ?」
進は病院を抜け出してきたとはいえず“大丈夫だ”しか言わなかった。
「部屋に戻って休め…お前の部屋はちゃんと取ってある。多分、ユキが
私物を置いたはずだ。幕の内さんに食いもん、運ぶように頼んでおいて
やるから…今日の所は休め。」(島)
「新艦長は…真田さんか?島か?明日、発進だ、って…」
進は島の言っている事なんて聞いていない。島は“そうだろうな”と思いつつ応えた。
「新艦長の話は誰も何も聞いていないんだ。古代が降りた事も誰も知らない。
多分、今晩辺り、通達がでるんじゃないか?」
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 7 作家名:kei