yamatoⅢ 太陽制御の後で 7
「いい匂い…幕の内さんのうまいんだよなぁ…」
進は立ち上がり手を洗うと“いいですか?”と幕の内に声を掛けた。
「あぁ、遠慮しないで喰え。俺はもう、食べたから全部食べていぞ?」(幕の内)
「じゃぁ遠慮しないで…いただきます。」
進はそう言うと笑顔でお稲荷さんを取って口に入れた。
「うまぁい!」(進)
「最高の褒め言葉だ。よしよし!」(幕の内)
「母さんを思い出せる唯一の食べ物です…」
進は今まで食欲がなかった事も忘れ食べた。
「進くん、人には得手、不得手がある。わかってると思うが俺は飯炊きは
誰にも負けないが戦闘は苦手だ。進くんが戦闘が得意、と言うわけでは
ないが進くんの考え方ひとつでヤマトの方向が変わると言っても過言じゃ
ない。みな、進くんを信じて付いてくるはずだ。休める時はしっかり
休んで明日から頑張ろう。」
幕の内はそう言うと“じゃぁ”と言って進の部屋を出て行った。
しばらくして佐渡がアナライザーと進の部屋に点滴を持ってやってきた。進は嫌がったがモリタ先生からの通達、と言うと口をへの字にしつつもベッドに横になり腕を出した。
「そう、人間素直にならないとな…ユキも心配しとる。この点滴は毎日やら
ないと免疫細胞が減る。ほんの少しの出血が危険なこともある。今日は
疲れただろう?ここまで歩けばかなりのリハビリになったはずじゃ。
終わりそうな時間を見計らって来るから寝てもいいぞ。」(佐渡)
「先生…ユキは?」(進)
「ユキは朝一番で軍に戻ると言っとったからもう、寝てるかもしれんな。」
佐渡はてきぱきと点滴を済ませると“ゆっくりやすみんしゃい”と言って出て行った。進はぼんやりと落ちる点滴を眺めていた。いつもならユキが部屋に来たり展望室で話したり…ユキがそばにいないだけで殺風景な部屋にしか見えなかった。しばらくすると進は眠りに落ちた。佐渡は体力を温存させるために睡眠誘発剤を点滴に含ませていた。
「古代くん、ちゃんと寝てるかしら…。」
ユキは進の身体の事が気になったが今は合わない方がいいと思いベッドに横になっていた。
「急に出航が決まって…古代くん間に合ってよかった。明日、驚くだろうな。
みんなも…。」
ユキはふと両親の事が頭に浮かんだ。
「そうだ…連絡しておかなきゃ…」
ユキは携帯を手に取ると母にメールを打った。
“明日、ヤマトで行きます。古代くんも一緒。帰って来るの、待っててください”
(本当に帰れるだろうか…一度負けた相手に勝てるだろか…)
ユキは不安な気持ちを押し殺すように自分のほほを軽くたたいた。
(私たちがそんな気持ちじゃ未来は切り開けない…スターシアさん、テレサさん
サーシァちゃん…私に力を下さい。誰にも負けない強い心を下さい。)
ユキの脳裏にふとあの時の進が現れた。アルファー星に願いを込めた事…
(宇宙に出たらあのころに比べたら遠いけどお願いしよう…)
そう思いながら目をつむったとき佐渡から連絡があった。
<ユキ、寝てたか?>(佐渡)
「いえ、横になっていただけです。」(ユキ)
<今、点滴してきた。誘発剤入れとるからそろそろ寝てるじゃろ。時々
様子を見に行ってやってくれ。点滴1時間ほどで終わる。>
佐渡はそう言うと通信を切った。ユキは時間を見て廊下に出て少し離れた進の部屋の扉を開けて入った。聞き耳を立てると規則正しい寝息が聞こえる。ユキは点滴をしていない手をそっと握った。
(暖かい…)
ユキは進の右手を両手で包むと自分のほほにあてた
(待ってたわ…お帰りなさい。)
ユキのほほに暖かい涙が流れた。
ユキは点滴が終わるまでそばにいた。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 7 作家名:kei