こらぼでほすと 花見5
ずるずると引き摺られるように虎の住処に歩き出した。まだ、少し寒いので、夜の動物園の虎は、室内運動場のようなところに居座っている。昼の動物園の虎も、外には出ているが、ヒーターのある場所にいる。以前と同じように、運動場に入ったら、虎のほうから近付いてきた。かなりでかいので、ニールはびびって足が止まる。
それに釣られて、刹那の足も止まったが、じっと虎のほうに視線は投げたままだ。ゆっくりと虎は近寄って、刹那の前にやってきた。ニールの腕を掴んでいた手を離して、一歩前に出る。
「逢いに来た。随分と遅くなった。」
刹那が挨拶すると、虎は前足で刹那の胸辺りを叩く。別に、怒っている風ではない。どすどすと何度か、刹那の胸を叩いた。
「ようやく、おまえたちの仲間が暮らす場所も荒らさずに済みそうだ。・・・・まだ、俺は子供なのか。」
ペロペロと刹那の顔を舐めている虎に、刹那も苦笑する。以前は、なんとなく虎の感情が解る程度だったが、今は、はっきりと解る。相変わらず、小さいな、と、言われているのだ。
「おまえ、刹那には優しいな? 」
悟空にも、なんとなく虎の感情は伝わるから、こちらも笑っている。よく来た、と、刹那を歓迎している。悟空には、尻尾でぴしゃっと挨拶した。それから、刹那の背後に居るニールに視線を向けてくる。ぐぉっと鳴いて近寄ってきたが、刹那が間に入る。
「俺のおかんをびびらせるなっっ。」
いや、挨拶するだけだ、虎はニールの手もペロッと舐めた。二回目でも、ニールは怖い。自分より大型の肉食動物に舐められて固まった。
「せっ刹那、なんて言ってるんだ? 」
「『久しぶり』 だ。別に、空腹じゃないからエサにされる心配はない。」
刹那のほうは、虎の頭を抱えて、耳の後ろ辺りを掻いている。以前、悟空に気持ちの良いところを教えてもらったから実践している。だが、続いて入ってきた沙・猪家夫夫には威圧の声だ。刹那とニール、悟空を庇うように、吼える。
「ありゃりゃ、俺たちは敵扱いかよ。」
「しょうがないですねぇ。僕らは、虎さんにすると異物ではありますから。」
で、悟空が虎の頭をゴツンと拳骨すると、大人しく背後に下がる。
「八戒は止めとけ。気功波で、ぶっ飛ばされるぞ。エロガッパなら食いついてもいいけどさ。」
「てっめぇー差別すんじゃねぇーよ、サル。俺が食われたら、八戒が嘆き悲しむだろうがっっ。」
「いや、別に、そこまでは。あーあー、食われちゃった、と、観察するぐらいでしょうかね。」
「ちょっ、八戒、ひどくね? それ。」
「その前に退けられると僕は信じてますよ? 悟浄。ははははは・・・虎さんだって、おいしいものが食べたいでしょうから、よっぽど空腹でないとねぇ。」
「フォローしてないってぇーの。」
興味を失ったのか、虎は刹那に体当たりして転がすと、ペロペロと刹那に乗りかかり舐めている。小虎を可愛がっているらしい。
「ニールも来い、と、言っている。」
「・・・へ?・・・ああ。」
刹那のおかんなので、ニールだけは、何もしない。傍に近寄って触ってもスルーだ。落ち着いているので、八戒が背後に声をかけると、鷹夫婦とキラ、アスラン、シン、レイも入ってきた。
「え? ママ? 」
「悟空、あれ、大丈夫なのか? うちのねーさん、食われないか?」
「大丈夫。刹那のおかんだから、いいんだってさ。おまえらも触るか? 今なら大丈夫だ。」
「てか、さすが、イノベーターだな。マリュー、触る? 」
「いえ、ここで十分よ、ムウ。凄いわね。」
野生ではないとはいえ、猛獣には違いない。それなのに、刹那を舐めている虎は猫のようだ。ものすごくでかい猫ではあるが。そっと虎の背後に回り、シンとレイも背中を撫でる。悟空が前に立って牽制しているから、虎は文句を吐かない。
「俺が大人になったら戦うのか? 」
舐められている刹那は、虎に尋ねたが、虎の返事は、ぐおっという声で、誰にも意味はわからない。だが、刹那は楽しそうに笑っている。なんて言ったんだろう、と、ニールが刹那に視線で問うたら、「母親から独立したら戦ってやる、と、言っている。」 と、返って来た。ああ、そういうことなのか、と、ニールも笑った。刹那が、おかんを連れて来たから小虎認定されているらしい。
「たぶん、今後も俺はおかんと来るから、戦うことはなさそうだ。」
「なるほど、虎の認識って、そういうことになるのか。」
「刹那、マザコンだから、そうなるよねぇ。・・・・というか、刹那。戦うのは無理っぽいよ? 悟空みたく投げられないでしょ? 」
悟空は、大地の神様のようなものだから、力も半端ではない。だからこそ、虎も平伏する。刹那には、そんな力はない。あるのは、分かり合える力だ。
「まあ、致命傷は負うだろうな。俺では無理だ。」
「いや、おまえを連れて来るのは、俺なんだから戦わせねぇーよ、刹那。だいたい、この虎、もういいおじいちゃんなんだ。そんな無茶しねぇー。」
「だが、キラたちには警戒しているぞ? 悟空。」
「そりゃそうだろ。人間だもん。俺が抑え込んでるから文句は言わないだけだ。」
「ちょっと待て、悟空。俺、完全に人間なんだけど。」
「ああ、ママは刹那のママだから、人間ってカテゴリーには入らないんだ。・・・・よしっ、そろそろ暴れようぜ? 刹那も来い。」
キラたちを退かせて、悟空は虎の尻尾をツンツンと引っ張った。すると、刹那に乗りかかっていた虎も立ち上がる。ここからは、悟空と虎の遊び時間だ。運動場を、てかてかと走り回り、虎と戯れる。
「はい、みなさんは外へ。」
八戒が、他のものは運動場の外へ誘導する。キラが、ニールの腕を取って誘導だ。
「この後、夜の動物園のオオアリクイさんとこにも行くよ? ママ。あの子も可愛いんだ。あと、バクさんも。ああ、キリンとかゾウのところも行こうか? 」
「ものすごく緊張した。」
大丈夫と言われても、あれだけでかいと心臓は、バクバクしている。遠目に、悟空が虎を投げているのが見えているが、刹那は大丈夫なのか、心配になって、キラの言葉が素通りだ。足を止めて背後を見ている。
「刹那は、大丈夫ですよ? ママニール。虎と会話できているから襲われる心配はありません。」
「いや、だけどさ、アスラン。」
「そうなる前に、悟空が止めます。」
「うん、そうなんだけど。」
「大丈夫ですよ、ニール。たぶん、あなたが参加したとしても、虎は襲いません。同種と見做されていますからね。」
理性をなくすほど空腹だったり激怒していれば、その限りではないが、虎だって知性がある。刹那を小虎認定した時点で、ニールも襲われる心配はない。そんな事をしたら、悟空に殺されることは理解しているし、刹那は保護する対象だと認識しているからだ。
「あれって、俺が刹那と来る限りは、刹那は小虎なんですね? 八戒さん。」
「そうなるんでしょうね。親と共にいるのは自然界では子供だけですから。」
「かーちゃんに保護されているっていうのが、ポイントだな。確かに、自然界の摂理からすると、そうなるさ、ママニャン。」
「しばらくは、小虎だな? 刹那は。絶対に、ねーさんと来るんだからさ。」
作品名:こらぼでほすと 花見5 作家名:篠義