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【腐】恋愛妄想疾患【亜種】

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朝食の後、ガーネットは目を通さなければならない手紙があるからと、アンバーの相手をアカイトに任せ、自分の部屋へあがる。
予想より少し遅く、扉をノックする音が響いた。

「どうぞ」

声を掛けると、扉の陰から青い髪が覗く。

「お邪魔します、ガーネット様」
「いいわ。もっと早く来るかと思ったのだけれど」
「朝食の片づけをしていました。アカイトだけに押しつけることも出来なくて」
「本当にそれだけかしら?」

ガーネットの言葉にも、カイトは人の良さそうな笑みを浮かべるだけだ。

「いいわ。まず、お礼を言わせてもらいます。あなたが協力してくれたおかげで、万事片が付きました。ありがとう」
「どういたしまして。アカイトを守る為ですから」

穏やかな声音のまま、カイトが続ける。

「わざと狙ったでしょう? 屋敷に、自分とアカイト以外いない日を。万が一の時は、アカイトに疑いが掛かるように」
「・・・・・・・・・・・・」
「最初の盗難騒ぎの時、匿名で電話を掛けたのは、あなたでしょう?」

ガーネットは、黙って青い瞳を見つめた。お互い、嘘やごまかしは時間の無駄だろう。

「アンバーを守る為よ。オニキスが彼を陥れようとしていたのは知っていたし、罠を用意するのに時間が必要だったから」
「そうですね。アカイトのアリバイが確認されてから、警察は慎重になりました。特に、あなたと近しい人に関しては」

ガーネットは、カイトのほのめかし無視して、

「それに、アカイトをどんなに疑おうと、連行することは出来なくてよ。それは私が許しません」
「アンバー様だって、確かな証拠がなければ、連れていくことは出来ないのでは?」

質問の形を取ってはいるが、カイトはその答えをすでに知っている。ガーネットが黙っていると、にこにこと笑いながら、「あなたのお父様は、やっかいな方ですからね」と言った。

「僅かな疑いを掛けられただけでも、婚約を破棄しろと騒ぐでしょうね。あなたが承知するとは思えませんけれど。何せ、アンバー様と結婚する為に、以前の婚約が破談になるよう仕向けたのですから」
「あら、何でも知っているのね」
「アカイトを守る為です」

あくまでも笑顔を崩さないカイト。ガーネットも微笑んで、

「あれはお父様が悪いのよ。アンバーが求婚してくる前に、無理矢理縁談をまとめようとするのですもの。私はアンバーと結ばれる運命なのに、どうしても理解しようとしてくださらなくて。彼が魔道士だなんて、些細なことだわ。それに、私を妻に迎えるなら、アカイトも受け入れてくださらないとね。私は、アカイトも連れていくつもりだから」
「アンバー様は知らないようですが?」
「言う必要があって? 彼は最初から、アカイトを気に入ってくれているもの」

ふと沈黙が落ちる。
ガーネットは、カイトの瞳を見つめながら、まるで海の底を覗くようだと考えていた。

その青はどこまでも深く、底を見透かせない。

「僕をアカイトにあてがったのは、アンバー様に惚れられたら困るから、ですか?」
「あなたが彼に取り入ったのは、アカイトを手に入れる為でしょう?」

お互い、答えを必要としない問い。
カイトは小さく笑うと、「アカイトを守る為ですよ」と繰り返した。

「あなたがアカイトを手駒に使うなら、僕も同じようにするだけです。マスターは、あなたに対する人質ですね」
「気分を悪くしたかしら?」
「いいえ」

深遠な青が、嵐の前触れのように濃さを増す。

「むしろ感謝しています。おかげで、彼は僕に心を開いて、僕を頼りにしてくれましたから」

ガーネットもまた、すいっと目を細めて、

「随分ご執心なのね。わざわざ人形に姿を変えてまで・・・・・・あなた、魔物でしょう? 声に特徴を持たせたのは、アカイトのコンプレックスを利用する為?」

カイトがにやりと笑った。口の端を持ち上げ、まるで牙を剥くように。

「アカイトは、僕の声を好きだと言ってくれました」

掠れたような、囁くような声で、カイトは続ける。

「あなたには、一目で見抜かれましたね・・・・・・マスターは気づいてもいないのに。魔道の知識は、お母様譲りですか?」

ガーネットは、母の姿を脳裏に浮かべ、ふと目を伏せた。

希代の天才魔道士と謳われた母は、父と出会い、全てを捨てた。名前も、姿も、経歴も、家族も、友人も。
愛しい人を手に入れる為に。
その母の血が、自分には流れている。

「お母様が教えてくれたわ。『恋と戦争においては、あらゆる戦術が許される』と」
「同感ですね」

くすくすと笑うカイトに、ガーネットも微笑みを向けた。

「私達、仲良くなれそうね?」
「僕は、アカイト以外と仲良くしたくないです」