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【腐】恋愛妄想疾患【亜種】

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ガーネットがオパール伯爵夫人を慰めに行っている間、アカイトは食堂でのんびりと銀器を磨いていた。
夫人のところに行ったら、夕飯まで解放してもらえないだろう。下手をしたら、泊まってくるかもしれない。
それにしても、白昼堂々盗みに入るとは、随分大胆な犯行だと考えていたら、玄関の呼び鈴が鳴る。メイドの応える声が聞こえた後、押し問答をしているような気配がした。

なんだ? 押し売りか?

男手があったほうがいいだろうかと、アカイトは布巾を置いて、ホールに出る。

「どうしました?」
「あ、アカイト、この人達が」

メイドを押し退けるように、二人の男が入ってきた。

「やあ、すまない。我々はこういう者だが、君がアカイト?」

年輩の男のほうが、警察手帳を見せる。アカイトはいぶかしげな視線を向け、

「そうですが、何か?」
「悪いけど、一緒に来てくれるかな。君に聞きたいことがあるんだ」
「俺に?」
「そう。君に。何、形式的なものだから、そんなにかしこまらなくてもいいよ」

口調は柔らかいが、有無を言わせない響きがあった。メイドが不安げな視線を向けてくるのを意識しながら、アカイトは顔を強ばらせる。

「一体、何の件で?」
「オパール伯爵の屋敷に泥棒が入った件で。大したことじゃないんだ、ただ確認したいことが」
「あら、そのことなら、あなた方の勘違いですわ」

突然割って入った声に、全員の視線が玄関に向けられた。
そこには、笑顔のガーネットが立っている。彼女がショールを外したので、アカイトは反射的に前へ出て受け取った。

「初めまして、刑事さん。犯人の目星はつきまして? 伯爵夫人が大層気に病んでいますの。何せ、盗まれた物の中に魔道具が混ざっていたでしょう? お知り合いの魔道士に相談したほうがいいかと、お心を決めかねているようでしたわ」

ガーネットの言葉に、若い方の刑事が露骨に顔をしかめた。
魔道絡みの事件となれば、警察は手を引かざるを得ない。お互い干渉しない、それが長年のいがみ合いから出来たルールだ。
年輩の刑事が、困ったように頭をかいて、

「いやあ、こちらとしても、確認することが山ほどありましてね」
「アカイトが、事件のあった時間、伯爵の屋敷近くで目撃されたこととか、ですの?」
「なっ!」

思いがけない事態に、アカイトは声を上げる。だが、抗議の声はすぐガーネットに遮られた。

「大丈夫よ、すぐに誤解だと分かってもらえるから」
「どうして、それをご存じなんで?」

年輩の刑事に、ガーネットは柔らかな笑みを向ける。

「私にも、お友達はいましてよ」

財界の名士を父に、社交界の花形を母に持つ彼女が、どこにどんなパイプを持っているか、誰にも確かなことは分からなかった。

「参りましたね、ガーネット様。こちらとしては、何でも確認しないことには」
「ああ、構いませんのよ。例え匿名の電話であろうと、放っておく訳にいきませんものね。ですが、アカイトは私の人形で、私の家族ですの。家族を守るのは当然のことでしょう? お分かり頂けますわね?」
「ええ、それは、もう」
「良かった。カイト、こっちに来て頂戴」

ガーネットが外に声を掛けると、青い髪がひょいとのぞいた。

「はい、ガーネット様」

囁くような掠れ声で、背の高い青年が応える。アカイトは、彼の顔を見て、息が止まりそうなほどの衝撃を受けた。

青い髪、青い瞳。本来持つべき色。赤を持つ自分は、失敗策として、無に帰するはずだった・・・・・・

「初めまして、アカイト」
「ああ、は、初めまして」

にこにこ笑う相手に、アカイトはもごもごと受け応える。目を合わせることが出来なくて、顔を俯けた。

「こちらの方は?」
「カイトですわ。帰り道で知り合いましたの。彼が、アカイトの無実を証明してくれます」
「え?」

アカイトは驚いて顔を上げる。カイトはにこにこ笑いながら、

「町で彼を見かけました。丁度お昼の鐘が鳴った時ですね。僕が見た時はパン屋でブドウパンを交換してもらい、その後薬局へ。十分ほど店員と立ち話してから金物屋へ回り、その後、本屋で雑誌を注文して帰ってます」

すらすらと答えた。

・・・・・・ちょっと待て。

年若い刑事が手帳にペンを走らせ、年輩の刑事がアカイトのほうに向き直る。

「アカイト、君は、彼が言った通りのルートを取ったかい?」

刑事に聞かれて、アカイトは頷くが、それよりも、何故カイトがそこまで細かく知っているのか、気になった。

「そうか。それなら、君の疑いは晴れたことになる。町と伯爵の屋敷は反対方向だ。もちろん、店員にも確認は取るけど、君は目立つから、誰か覚えてるだろう」
「お願いしますわね、刑事さん。疑いが残ったままですと、私達も落ち着きませんわ」
「承知しております、ガーネット様。どうも、お騒がせしました」

年輩の刑事が年下のほうを促し、屋敷を出ていく。
ガーネットもカイトも笑顔で、メイドも刑事がいなくなってほっとした様子だ。
アカイトだけが、釈然としない様子で、カイトを伺っている。

・・・・・・なんだ、こいつ。

何故、これほど細かく自分の行動を把握しているのか。そもそも、初対面ではないのか。自分は、町でカイトを見かけた覚えがない。
アカイトが口を開くより早く、ガーネットがカイトに向き直る。

「ありがとう、カイト。あなたのおかげで助かったわ。彼らの誤解がすぐ解けることは分かっていたけれど、アカイトを連れていかせる訳にいかないから。そんなことになれば、お父様はさぞ気分を悪くされたでしょう」

その言葉に、アカイトはハッとした。確かに、ガーネットの父親は厳格な人だ。警察に連れて行かれたとなれば、疑いが晴れたとしてもアカイトを追い出しかねない。

そうか。カイトのおかげで命拾いしたんだな。

当のカイトは、困ったように手を振ると、

「いいえ。僕の方こそ、アカイトをつけ回すような真似をしてごめんなさい。彼の赤い髪が珍しくて、友達になりたかったんです」
「まあ、それだったら、もうお友達でしょう? ねえ、アカイト?」
 
ガーネットが振り向き、笑顔を向けてくる。
アカイトは我に返って、

「え? あ、ああ、はい。カイトのおかげで助かったよ。ありがとう」
「お礼をしなくてはね。カイトは、どちらのお屋敷に住んでいるの? あなたのマスターは?」
「あっ、はい。ええ、でも・・・・・・あ、マスターに、聞いてみないと」

何故か動揺した様子のカイトに、アカイトは訳ありなのだろういぶかしんだ。
ガーネットは気づいた様子もなく、「是非、一緒にいらしてね」と誘う。

「はい、あの、僕、そろそろ戻らないと」
「まあ、そうなの? 残念だわ。アカイト、門まで送って差し上げて」
「あ、はい」
「またいらしてね、カイト。今度は、あなたのマスターと」
「はい、ありがとうございます」

カイトが頭を下げ、アカイトは彼と一緒に玄関を出た。