【腐】恋愛妄想疾患【亜種】
「ごめんね、付け回すようなことして」
外に出たところで、カイトに謝られる。
「えっ、あ、いや」
「ごめんね、気持ち悪いよね。君にマスターがいるかどうか、気になったから。ちゃんとしたお屋敷に住んでて、羨ましいな。マスターも、優しそうな方だし」
「え・・・・・・カイトは」
アカイトの言葉を途中で遮り、カイトは寂しげに微笑んだ。
「マスターはいない。住むところもないよ。捨てられたんだ。僕は、失敗作だから」
「なっ、何でだよ。カイトは、ちゃんと・・・・・・」
髪も目も青いだろと言いかけて、口をつぐむ。恐らく外見が理由ではないと、気づいたから。
カイトは、じっとアカイトを見つめ、
「アカイトの声は、綺麗だね」
囁くような声で言った。
言葉に詰まるアカイトに、カイトは悪戯っぽく微笑む。
「マスターがいないこと、内緒ね。処分されてしまうから。一応、心当たりはあるけど・・・・・・」
「あ、分かった。誰にも言わない。その、引き取ってくれるといいな、心当たりの人」
「うん・・・・・・きっと大丈夫。その人も、ガーネット様みたいに優しい人だから」
カイトの言葉に、それなら大丈夫だと、アカイトは頷いた。
門まで来ると、カイトは「此処でいいよ」と言い、アカイトのほうを向く。
「また会いに来てもいい? それとも、僕はアカイトに嫌われちゃった?」
「うぇっ? あ、い、いや、お前のおかげで助かったよ。警察に連れてかれたら、この屋敷を追い出されてた。ありがとう、恩に着るよ」
「そう? 良かった。悩んだけど、アカイトが僕のような目に遭うのは嫌だったから」
「あっ・・・・・・うん、ありがとう。落ち着いたら、知らせてくれよな。ちゃんとお礼もしたいし」
「お礼なんていいよ。また会ってくれるだけで」
「そうはいかないだろ。カイトは恩人みたいなもんだし」
アカイトが言い張ると、カイトは首を傾げて、考えるようなそぶりを見せた。
「そう? じゃあ、今度、アカイトの歌を聴かせて欲しい」
「え?」
「アカイトの声が好きだよ」
真っ直ぐ見つめられて、アカイトは自分の頬が熱くなるのを感じる。
「えっ、あっ」
「約束だよ。じゃあ、またね」
カイトは手を振って走っていき、アカイトはぼんやりとその場に立ち尽くしていた。
アカイトが屋敷に戻ると、ガーネットが電話の受話器を置く。
「ああ、アカイト。お茶の支度をしてくれる? アンバーとオニキスが来てくれるの」
「あ、はい。分かりました」
「二人とも心配してくれていたわ。誤解とはいえ、警察が来るなんて、いい気分ではないわね」
「すみません、俺のせいで」
アカイトが頭を下げると、ガーネットは「アカイトのせいではないわ」と言った。
「匿名の電話だなんて、卑怯なものね。おまけに、無関係のあなたに濡れ衣を着せようだなんて。カイトがいてくれて、本当に良かった」
「そうですね。本当に」
「彼にお礼をしなくてはね。彼のマスターにも」
ガーネットの言葉に、アカイトはどきりとする。カイトにマスターがいないと知ったら、ガーネットはどんな反応をするだろうか。
引き取ると言い出すだろうか・・・・・・俺の時のように。
それは十分あり得ることだが、ガーネットの父がそれを許さないだろう。アカイトを連れてきた時も、最初は反対していたから。
だが、普段は従順なガーネットが頑として譲らず、母親の取りなしもあって、アカイトは従者としてガーネットの側にいることを許された。
「カイトのマスターは、どんな方なのかしらね?」
無邪気な物言いに、アカイトは「優しい方だそうですよ」と返す。
「では、お茶の支度をしてきます」
「お願いね」
アカイトは一礼してから、台所へと向かった。
作品名:【腐】恋愛妄想疾患【亜種】 作家名:シャオ