黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 14
ロビン達は交互に現れる過去と現在のウェイアードの地図の東西の果てに目を凝らした。シンの言ったとおりであった。二百年前のガイアフォールはとても小さな滝であるのに対し、現在のそれは非常に大きくなっていた。
「もうお気づきであろう」
ハイドロが指を弾くと、床の映像は消滅した。
「確かに、ガイアフォール巨大化していました。つまりはこれを放っておけば…」
「ロビン、お主の言うとおり世界は千年と経たぬ内にガイアフォールに飲み込まれる」
二百年の期間の間にガイアフォールは小さな水流から巨大な滝へと変貌を遂げた。ハイディアやアルファ山のあるアンガラ大陸はまだ数百年は無事であろうが、ガイアフォールに接するガラパス島や大ウェスト海の大陸はこれから数十年の内にも飲み込まれてしまいそうだった。
この事実を知り、世界の危機がどれほど大きいものなのかロビン達は知らしめられた。
「このままじゃ、一番近い島はすぐに飲み込まれちまうぞ」
シンは言った。
「その通りだ」
ハイドロは指を弾き、再び現在の地図を映しだした。今度は大イースト海のある一つの島を拡大するように映し、それを指さし、言った。
「大イースト海南東のガラパス島とよばれる島の近くには、水のエレメンタルを司るエレメンタルロック、アクアロックを持つアクア島なるものが存在する」
ガラパス島やアクア島へはロビン達が赴いている。確かにあそこにはアクアロックというエレメンタルロックがあった。さらに悪いことに、それらの島はガイアフォールに接した位置にあった。
「これらの島々、いや、アクアロックがガイアフォールへ飲み込まれてしまえば、世界の水のエレメンタルが極端に減少してしまう事になろう」
ハイドロは言った。ガイアフォールの拡大の速度は過去の地図と見比べれば明らかであり、アクアロックが飲み込まれてしまうのはそう遠くない未来であった。
「もしもそんな事が本当に起きてしまったら、取り返しの付かないことになりますね…」
ピカードが言った。しかし、世界はそれ以上の危険にさらされる可能性をはらんでいた。
「どちらの地図にも載っていない場所がある。アンガラ大陸の北の果てにある地だ」
『ペナトレイト・フォーシー』
ハイドロはエナジーを発動し地図の映っていた床に外界の風景を映しだした。どうやら彼はこのエナジーによって外界の様子を探っていたらしい。
「ここは!?」
ガルシアは映し出された外界を見て驚きを見せた。床の映像は猛吹雪の降りしきる、河川まで氷に閉ざされた見ているだけで凍えてしまいそうな風景だった。
「知っているのか、ガルシア?あれがどこなのか」
ロビンが訊ねるとガルシアは頷いた。
「ああ、あの風景、忘れもしない。北の火の一族の住む地、プロクスだ」
ガルシアは三年前、ハイディアで嵐に遭い、川に両親やロビンの父親、ドリーと共に流されてしまった際にサテュロス達によって助けられた。その時に連れられたのが大寒波に襲われるプロクス村だった。
「あれがあいつらの故郷、なるほど。あそこまで寒波に襲われているからサテュロスやカーストが手段を選ばず灯台解放に血眼になっていたわけか…」
プロクスの民である彼らが時にかなり強引な方法で灯台を目指したのか、シンは納得していた。
「イミルよりも酷い状況ですね、この事を知っていればサテュロス達の気持ちが少しは分かったかも知れませんわ…」
同じく北国出身のメアリィには大寒波の大変さが身に染みていた。
ふと、ハイドロが咳払いをした。するとプロクスの状態を知り、騒がしくなったロビン達は静かになった。
「なにやら積もる話もあるようだが、ひとまず私の話を聞いてほしい。この床に映る場所がガルシアの言っていたプロクスの地だ」
ハイドロは念じた。空中を飛行する鳥の視点のように、大寒波の襲うプロクス村を通り越して視界は更に吹雪の強い所へ移動した。
そこには切り立った山々に囲まれた真紅の壁面を持つ灯台があった。その更に向こうは絶壁に暗黒の空間が広がっており、一定の周期で稲妻が放たれていた。
「あれに見えるのが火の灯台、マーズ灯台だ」
ハイドロは言う。そしてこれこそが世界を危機に陥れている元凶だとした。
「ハイドロ様、マーズ灯台が世界を危険にさらしている、とは一体どういった事なのですか?」
「マーズ灯台の北に暗黒の空間が広がっておろう?これは空間に広がるガイアフォールなのだ」
そこにいた全員がハイドロの言葉に驚愕した。海だけでなく、空間にまでガイアフォールが存在している事にも当然驚いたが、何よりもそれが存在する意味に驚かざるを得なかった。
「ちょっと待てよ、この真っ暗なのがガイアフォールだってんなら、海のガイアフォールと働きは同じって事じゃねえのか!?」
珍しくジェラルドが誰よりも先に暗黒の空間のなすことを理解した。
「その通りだ、ジェラルドよ。この空間のガイアフォール、仮に暗黒ガイアフォールとしよう。これも錬金術消失によって発生し、ウェイアードを飲み込まんとしているものだ」
ハイドロは更に悪いことを告げた。
「そしてこの暗黒ガイアフォールは浸食の速度が非常に速い、特にも昨今の灯台解放により世界のエレメンタルのバランスが崩れたせいで浸食が更に進んでしまっている」
「浸食が進んでいるって、この暗黒ガイアフォールのすぐ側にはマーズ灯台があるだろう。灯台が飲み込まれたらどうなるんだよ!?」
シンが叫ぶように言うと、ハイドロは対照的に静かに告白した。
「錬金術は一生復活しないばかりか、そのまま世界はガイアフォールへ飲み込まれ、全てが無に帰すであろう…」
ロビン達は絶望的な状況下に置かれていた。早急なる錬金術復活が求められていた。
「全てが無に帰るじゃと?ハイドロよ、貴様今そう言ったのか!?」
ハイドロの後方でずっと黙っていたコンサバトが、話を聞き、つかつかと歩み寄ってきた。
「まだおったのか、コンサバト。いかにも、私は世界は消えてなくなると言った」
「貴様が錬金術復活に加担したせいでそのようなことが起きておるのじゃぞ、分かっておるのか!?貴様のせいで世界は近い将来無くなるのだ」
「話がずいぶん飛躍しておるな。私のせいではない、もちろんロビン達のせいでもない。全ては錬金術の消失と最近のエレメンタルのバランス崩れが崩壊へ進めているのだ」
「そのエレメンタルのバランス崩れは何が原因で起きた?灯台の解放であろう?何もしなければこのような事態は起きなかったはず!お主は世界に仇なす悪の権化じゃ!」
「だったらどうするというのだ、私をどうにかする権利は貴様にはないはずだが?」
ぬう、とコンサバトは言葉に詰まった。
「コングレスにて会議を開く!ハイドロよ、絶対にお主の思惑通りには行かせんからな!」
吐き捨てるように言うと、コンサバトはピカードを突き飛ばして部屋を出て行ってしまった。
「やかましい爺がようやく帰ったか」
ハイドロはため息をついた。
「いいんですか?ハイドロ様、コンサバトさん会議を開くって言っていましたけど…」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 14 作家名:綾田宗