黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 14
レムリアの王の座から失脚され、レムリアを追われることになるのでは、と心配になったロビンが訊ねた。しかし、ハイドロはそんな心配をよそに笑みまで見せてきた。
「案ずることはない、ロビンよ。コングレスなどただのやかましい爺の集まりだ。私に害を与えることなどできはせん」
それよりも、とハイドロは今後についての策を立てるべく話を戻した。
「このまま錬金術が復活しなければ世界はガイアフォールに飲み込まれ無となってしまうそのためには何としても最後の灯台を灯さねばならん」
しかし、ロビン達には問題が立ちふさがっていた。最後の灯台、マーズ灯台のある場所は大寒波により極寒の地と化している。河川も凍り付き、船を進める事はできず、かといって空から行こうにも猛吹雪により空中はより危険な状態であった。
プロクスの地へ行くには歩いて山を越えていくしか手段は無いように思われた。
「お前さん達、プロクスに行く足がないって思ってないか?」
ルンパがロビン達の考えを見透かしているかのように訊ねてきた。
「何かいい方法があるってのか、おっさん?」
ジェラルドが聞いても悪戯っぽい笑みを、ルンパは浮かべ続けていた。
「ジェラルド、レムリアにはある秘宝があるのだよ。もっとも、かつて盗賊だったルンパが見つけたもので、レムリアの民には使えぬ代物だがな」
「本当はくれちまうのが勿体ないんだが、まあ仕方ねえやな」
「それじゃあ勿体ぶらずに早く見せてくれよ!」
ジェラルドは口を尖らせた。
「まあまあ、慌てなさんな。今出してやるからよ」
言うとルンパは目を閉じ念じ、指を高らかに弾いた。その瞬間ルンパの手元に小さな桐の箱が出現した。ルンパは箱を開いた。中身は淡い光沢を放つラピスラズリの指輪であった。
「ほれ、これが俺の一番のお宝、その名もテレポートのラピスだ」
ルンパは自慢げに皆に見せた。
「そうだなぁ、よし、そこの金髪の姉ちゃん。お前さんにこいつを託そう」
ルンパはシバに、テレポートのラピスを差し出した。
「私に使えるのかしら?」
「ものは試しだ、取りあえずはめてみな。あんたの力が指輪と一致すれば自然と指輪が輝くからよ」
半信半疑でシバは指輪をはめてみた。左手人差し指にはめてみると、思いの外ぴったりとはまった。サイズは申し分ない。
はめた後しばらく待ってみた、しかしルンパの言うような変化は起こらない。
「何にも起きないんだけど…」
「ありゃ、それじゃ姉ちゃんには合わないのか?」
ルンパが言った途端、シバの左手が瑠璃色に輝き始めた。
「本当に指輪が光ったですって!?」
シバはかなり驚いた。シバの指輪は眩しいほどにではなく、きらきらと上品な輝きを放っていた。
「なんだ、やっぱりあんたに適性があったか。オレの目に狂いは無かったな!」
ルンパは一度は疑ったというのに、調子のいいことを悪戯っぽい笑みと共に言った。
「…それでこれをどうすればいいの?」
適性があることは分かったが、使い方までは分からずシバは訊ねた。
「テレポートと言ったら自分の行きたいところに一瞬にして言ったり物を移動させたりってのがオレのイメージだ。ひとまず姉ちゃんの行きたいところを思い浮かべてそのイメージをエナジーに変換してみるんだ。まあ、ごちゃごちゃ話すよりやってみた方が分かりやすいだろ」
行きたい場所、と急に言われてもシバはいまいち浮かばなかった。あまり遠くには行けないのではないかという考えも浮かんだ。
「シバ、取りあえずこの宮殿の外にテレポートで出てはどうだ?」
ガルシアが言った。確かにそのくらい短い距離ならば実験にはちょうど良さそうだった。
「そうね、やってみるわ」
シバは目を閉じ宮殿の外の風景を思い起こした。そしてエナジーを発動した。
『テレポート』
シバが詠唱すると、指輪の輝きが彼女の全身を包み込み、その体を光り輝く粒子へと変え、やがて散っていった。
「本当に消えた!?」
ガルシアは仰天していた。彼だけではない、仲間達皆が驚きを見せていた。
シバが姿を消してから少ししてから、空間に光の粒子が集まり、やがて人型となり、シバが再び姿を見せた。
「すごいわ…」
シバ自身もかなり驚いていた。
「一瞬だったわ、まばたきしたらこの宮殿の外にいたわ。本当にすごい、この指輪…」
シバは自らの左手にて尚も淡い輝きを放つテレポートのラピスを見つめた。
「実験成功、だな!今はまだすごく遠く、すごく近くには飛べねえかもしれねえが、その内嬢ちゃんの思い通りにテレポートできるだろうよ」
ルンパは持ち前の悪戯っぽい笑顔で言った。
「そうね、いろいろ練習してみるわ、ありがとう」
シバはルンパに礼を言った。ルンパは構わねえよ、と笑顔のまま応じた。
「さて、これでプロクスへ行く手段が得られた。ロビン、そして仲間達よ、急ぎプロクスへ向かい、マーズ灯台をともすのだ!」
ハイドロが言うと、ロビン達は志強く持った瞳で頷いた。
※※※
大海原を一望できる原に、ダイヤ柄のストールが括り付けられ建つ墓に、ピカードとその叔父ウィズル、そしてロビン達がいた。
プロクス目指し再び旅立つ前に母の墓へ行きたいというピカードの意向でここへやって来たのである。
ピカードは額から胸へ、左肩より右肩へ指先を動かして十字を切り、手を組んで祈りを捧げた。
「母さん、僕は世界を救うため再び旅に出ます。必ず無事で帰ってきます。それまでどうか待っていてください…」
ピカードはしばらくの間跪き、それから立ち上がった。
「皆さん、お待たせしました。僕はもう大丈夫です。行きましょう、プロクスへ!」
ピカードの瞳に迷いは無かった。
船を碇泊させていた地下洞窟までウィズルは送ってくれた。
船に乗り込む前にピカードは礼をした。
「叔父さん、送ってくれてありがとう」
「気にするな、かわいい甥っ子の見送りなんざ当たり前さ」
ウィズルは笑って見せた。
「ピカード、絶対に帰って来いよ」
「はい、叔父さん!」
ピカードが返事をすると、ウィズルは手を差し出してきた。ピカードはそれをがしっ、と握り二人はしばらく握手した。
それから一行は船に乗り込んだ。
「碇を上げたぞ!」
ジェラルドが叫んだ。
「出航だ!」
ガルシアは舵を握った。
船が進み出すと地上のウィズルは手を振っていた。ピカードも縁から少し身を乗り出して手を振り返した。ウィズルの姿がすっかり小さくなるまでずっと。
「ねえ、ピカード」
地下洞窟をゆっくりと航行している時にシバがふと声をかけた。
「何でしょう?」
「ピカード、あなた私たちと大して見た目は違わないけど、本当の所一体いくつなの?」
シバの質問にピカードはギクッとした。
「確かに、レムリアでは千年生きるのが当たり前だそうだったな。それで、何歳なんだ?」
シンもピカードの年齢が気になりだした。
「いやぁ、そんなのどうでもいいじゃないですか」
ピカードは妙に動揺していた。
「その様子だと、やっぱりそうとう上なのね。教えてよ」
シバは更に迫った。
「いや、本当にいいですって!」
「いえ、よくないわ。もしもスクレータよりも年上だったりしたら言葉遣いも気にしなきゃ」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 14 作家名:綾田宗