タイムドライバー
怒鳴りながら目の前に飛び出したバサラに、ガムリンは動きを止めた。
どうすることも出来ず、バサラの肩越しから覗けば、ギギルが
機に乗じて逃げ出す姿が見えた。
「お前、いったい何者だ?」
バサラが銃を構えたままのガムリンに詰め寄る。
今ここで、正体を知られる訳にはいかない。
距離を積めてくるバサラに、隙をうかがってこの場を逃れようとガムリンは後ずさった。
構えたままの銃にバサラはひるむ事なくガムリンから、目をそらさなかった。
撃つ気などもとよりないが、万一、怪我などさせでもしたらと、
銃にセーフティを掛けようと気を取られた隙、バサラがガムリンに掴みかかろうと
勢いよく前へ出た。
そのはずみで、ぬかるみに脚をとられたバサラが前のめりで、ガムリンの方へ倒れ込んできた。
「うわっぁ!」
思わぬ事にバサラが声を上げると、 ガムリンの手は無意識に伸ばされていた。
倒れそうになったバサラの身体を、ガムリンの両腕は支え、その胸で受け止めていた。
驚きに目を見開いたバサラの顔が腕の中で見上げている。
久しく見ていなかった瞳に、ガムリンは引き込まれるように目を逸らせずにいた。
その顔がニヤリと不適な笑みを浮かべたかと思うと、抱きつくように背中に手を回された。
「つかまえたぜ」と
言い放ったバサラはそのまま体重をかけると、ガムリンの身体を地面に押し倒した。
馬乗りになったバサラがガムリンのヘルメットに手をかけた。
「正体を見せてもらうぜ」
ガムリンはバサラの手を振りほどこうと、頭を左右に振って逃れるが、
上から馬乗りになられては自由が利かない。
ガチャリとロックが外され、ヘルメットを取り払ったバサラが、ガムリンの上で動きを止めた。
「……お、前は……」
現れた予想外の顔に声も出せないといった風に、バサラは言葉を続けられずにいた。
ガムリンは薄く目を伏せ、バサラの視線をよけるように顔を逸らせると、
圧しかかる身体が力を失った隙にその下から抜け出した。
「待て!お前はいったい?」
追いすがるバサラを振り切るようにガムリンが駆け出した時、
敵襲を知らせる警報が鳴り響いた。
背後のバサラの足音が止まった。
追跡よりも出撃を選んだのだろう。
ヘルメットを脇に抱えたまま、ガムリンは振り返らずに走り続けた。
間違いなく顔を見られたはずだ。
バサラは自分の正体に気づいただろうか?
いや、それはないだろうと、ガムリン頭をふった。
20年後の未来からやってきたガムリン木崎だなどと
いくらバサラでも信じはしないだろう。
自分の心を安堵させようとする一方で、
気づかれない寂しさに孤独感が広がった。
「バサラ……俺はお前を救うために、ここに戻ってきた」
ガムリンは伝えられない想いを胸の中で、祈るようにつぶやいた。