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【夢魂】攘夷篇

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第4話「プロポーズは1回で決めろ」




「来てやったぞ」
 星が輝く夜空の下で、無愛想に双葉はにまにま笑う少年に告げた。
「お~待っとったでぇ。未来の花嫁はん♪」

“ボカッ”

 直後、岩田が食らったのは双葉のアッパーカット。
「誰がお主の嫁だって」
「じょ、冗談やで。……半分な」
 その言葉にまた鋭い目つきで拳をかまえる双葉。岩田は苦笑いを浮かべた。
「怒った顔も好みやけど、やっぱあんさんは笑っとる方がええよ」
「一度も見たことないくせによく言う」
「それもそうやな」と岩田はまた笑いをこぼす。
――本当によく笑う男だ。
 呆れた表情を浮かべるが、双葉は嫌な気持ちにはならなかった。
 『笑顔』はもとから好きであり、岩田の笑顔は沈んでる空気の中にいる仲間達を元気づけている。そんなチカラを持つ彼を悪く思わない。
「お主は笑ってばかりだな」
 呟くように言う双葉に、きょとんした目で岩田は答える。
「そやかて、ヘコんどったってしゃーないやん。気ィ重うなって泣いてばっかで、ええことあらへん。せやけど笑っとると胸が弾んでみんなとごっつう楽しく過ごせて、ええことずくしや」
 にっこり笑う岩田。笑う門には福来たるというように、『笑顔』は人々を幸せにさせるとても不思議なチカラがある。
 そう感じるのは双葉も同じだった。
 実は意気投合してる事など知らぬ岩田は、笑みを浮かべたまま彼女の顔を見て言った。
「せやから双葉はんも笑いなはれ」
「なぜお主に言われて笑わなければならない」
「お堅いな~。高杉はんの言う通りやわ」
 困ったように頭を抱える岩田だが、ふと何か思いついたように話を切り替える。
「ところで、あんさんはなんで戦っとるの?」
「なぜそんな事を聞く」
「女のあんさんが男ン中混ざって戦うって大変やろ」
「心外だな」
 双葉は半ば怒りを含んだ声で言う。
「なら何故男は戦うことが許される?……女は弱い、女だから駄目だ、女は戦えない。そんなこと誰が決めたわけでもないのに誰もがそう言う。私はそれが腹立たしくて仕方ない」
 戦場に立つと決めた時、当然兄に反対された。周囲の仲間からも痛い目で見られた。
 確かに女の身体は、男に比べれば非力だ。けど、だからといって戦える力がないわけじゃない。侍としての強さも覚悟も持てる。
「『女』だって、十分戦えることを証明できる」
「それがあんさんの戦う《ワケ(理由)》なんか」
「違う。……仲間の……笑顔を護るためだ」
「『笑顔』?」
 首を傾げる岩田に双葉は少し迷ったが、話すことにした。
 自分と同じ考えを持つこの少年に。
「私はみんなの笑顔に何度も救われてきた。だからその笑顔を消す《アイツら(天人達)》は絶対に許せない。これ以上笑顔を消させないために、私は戦ってるんだ」
 双葉は心強く語るが、岩田は眉をひそめた。
「そりゃおかしいで~。笑顔護る言っとる人が笑っとらんでどないすんの?」
「……兄者にも言われたよ。でも何だか笑う気になれなくてな」
 溜息混じりに肩をすくめる双葉。それは怠け気味の銀時を叱るため、幼い頃から仏頂面を通してきたせいかもしれない。
 いや、理由は他にもあるかも。けど、今は思い当たる節がない。
「なら安心してや。ワイが近いうち絶対笑わせてみせますわ」
と、岩田は得意げに宣言した。そんな彼に双葉は苦い表情を浮かべるが、それにはどこか嬉しさも混ざっていた。
「にしても笑顔を護るためでっか。ええ話や。スマイル&ピースやな」
「そういうお主はなぜ戦う?」
「ワイでっか?」
 自分を指差して聞き返す岩田に、双葉は小さく頷く。
 すると岩田は妙にたくましさに満ち溢れた顔で答えた。
「ワイは姉ちゃんのためや」
「姉の?」
「せや。ワイの姉ちゃん大阪におるんやけど、身体弱くて根暗で塞ぎこんどるんや」
 岩田は明るい口調で話すが、その内容は実に暗いものだった。
 岩田の姉は生まれつき身体が弱く、おまけに幼少時に天人の乱暴を受け、極度の天人恐怖症になってしまったという。またその経験が原因で卑屈になってしまい、治療にも専念できず、岩田の姉は日々弱っていくしかなかった。
 岩田はそんな姉が治療に励んでもらえるよう、この攘夷戦争に参加したという。
「ワイも頑張っとるから姉ちゃんも頑張ってやって、元気づけてやりたいんや」
「……姉想いなんだな」
「いやいや。双葉はんには敵いまへんて」
 双葉はその意味が分からず、首を傾げた。だが、岩田は深くは語らなかった。知らない方が彼女のためだと思ったのだろう。こういう所は良く気が利く少年である。
 話を逸らしてから、岩田は真っ直ぐな眼で夜空を眺めた。
「不思議なもんやな。あんさんは笑顔のため、ワイは姉ちゃんのため、みんなは国のため。《ワケ(理由)》はちゃうのにみんな肩並べて戦っとる。ワイ、思うんよ。歩む道はちゃうても、みんな目指す場所は同じやて」
「同じ場所?」
「みんな『護る』ために闘っとるやん」
 この夜空に輝く一億の星と同じぐらいに人がいる。その数だけ出会いがある。
 すれ違うだけで終わっていたかもしれない人と人が、共に力を合わせて闘っている。
 それぞれが持つ理由は違うが、誰もが何かを『護る』ために闘っている。こんなに多くの侍がいても『想い』が通じていることに、岩田は神秘的なものを感じるのだ。
「想いは同じということか」
「せやからみんな仲良うできて一緒に戦えるんや。まぁ、人生山あり谷ありで喧嘩してしまう時もありますわ。もしかしたらバラバラな道歩むはめになって、いがみ合うようなってまうかもしれへん」
「まるでこれから私たちが敵対するみたいな物言いだな」
 溜息をつきながら双葉は言った。
 実際、遠くない未来でそれは現実となるが、今は冗談めいた言葉にしか聞こえなかった。
「せやけど目指す場所が同じやったら、いくらでも仲直りできまっせ。それは天人はんも同じはずや。せやから今は刀 交えとる天人はんたちとも笑える日が来ますやろ。ワイはその日が来るまで護りたいモン護るだけや」
「………」
 意気揚々と岩田は語るが、双葉は内心複雑だった。
 天人と笑える日?そんな日が本当に来るのだろうか。
 今の自分にとって『天人』は大切なモノを奪っていく憎む以外の何者でもない。
 そんな奴らと笑いたいと思えない――そう考える彼女の表情は暗く沈む。
「双葉はんどないしたんでっか?」
「……いやなんでもない」
 心配そうに岩田が顔を覗きこんできたが、双葉は口にしないでおいた。膨らみ続ける胸の憎悪で、岩田の笑顔を崩したくなかったからだ。
 彼女のそんな気持ちを知らない岩田は、的外れな発言をする。
「もしかして高杉はんのこと考えてて、今のワイの話聞いてなかったんでっか!?」
「……かもな」
「嘘やろ~。せっかくええ話して惚れさせよう思っとったのに~」
「そんなので私は惚れない。……だが今の話は悪くないぞ」
「なんや聞いとったんやないか。冗談悪いでっせ」
 文句を含んでるものの、岩田は笑みを浮かべながら言う。
「でも今のでちょっと惚れたやろ?」
「ないな」
 双葉はあっさり言った。
「だいたいお主は信憑性がない。そうやって軽々しく『好き』だの『惚れた』だの言われても何も――」
作品名:【夢魂】攘夷篇 作家名:karen