島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)1
「ユキ!」
ユキはそのまま床に倒れた。浅いが呼吸はしっかりしている。
「古代、ここはいいからユキを医務室へ。太田、ワープはそのまま予定通り
行う。」
ちょうど艦長室から降りてきた沖田が進に指示を与える。
「……心労がたたったんだろう…佐渡さんの所で休ませてやれ。南部、古代が
いなくても大丈夫か?」(沖田)
「大丈夫です。」(南部)
「古代、早く連れて行け。ワープまで後5分だ。お前はそのままユキに
付いていてやれ。太田、もう一度計算してアクエリアスの引力に巻き込まれ
ないよう気を付けろ。アナライザーも準備はいいか?」(沖田)
「「大丈夫です。」」
二人から同時に返事がきた。沖田はそれを聞いて満足そうに頷くと進に早く行け、と視線をエレベーターに移した。
「古代、森ユキを医務室に連れて行ってきます。」
進は素直にユキを抱いて医務室に戻った。
「ユキ?どうしたんじゃ?」
眼の真っ赤な佐渡が驚いてユキを抱いている進を見た。
「急に倒れちゃって…貧血ですかね?」(進)
「ベッドがいっぱいなんじゃ…ワシの部屋に寝かせようかの。」
その時“ワープ30秒前”と放送が入った。進はユキを佐渡の部屋に下すと島の乗っているストレッチャーをしっかり固定した。
<ユキさん…>
ユキの脳裏にテレサが現れた。
(テレサさん…)
<私の血も…流れてしまえばただの血ね…島さんを救えなかった…>
テレサの瞳から涙が落ちる。
<地球は美しい星ですね…人の気持ちが美しいです。島さんが宇宙へ飛べば
私は一緒に星の海を渡り…地球の緑は私の心をも暖かくする…幸せの
星です。私はほんの少しだけど一緒にいられて私も幸せでした。>
テレサの顔はとても美しかった。
<島さん…早すぎるけど私の所へ来てくれました。ユキさん、悲しまないで。
私は島さんを待っていました。もっと先の事だと思っていたけれど…
今度はふたりで幸せになります。ユキさん、ありがとう。あなたも古代
さんと幸せになって。>
(待って…どうしても島くん、連れて行ってしまうの?)
ユキがテレサの手を取った。
(冷たい…テレサさん、冷たいわ…)
<そう…島さんに血を上げてから私はずっと寒いまま…でももう、大丈夫。
島さんがそばにいてくれれば…あの方はとても暖かく私を包み込んで
くれました。ごめんなさい…地球で幸せになってほしい、って言って
おきながら“待ってる”なんて…矛盾してるわね。>
話してるうちにテレサの手が温かくなってきた。
(島くんがそばにいるの?)
ユキがテレサに聞くと
<そばにいます。島さんを感じます…私の島さんにやっと逢える…ユキさん、
私、行かなくちゃ…島さんが私を探してる…。>
テレサがそっとユキの手を離した。
<ユキさん、ありがとう。あの時島さんを救ってくれて…感謝しています。>
ユキはワープが明けたと同時に目が覚めた。
「ユキ、大丈夫か?」
進が心配そうに顔を覗きこむ…がユキは進の事など目に入らずストレッチャーの上に寝かされている島の元へフラフラと近付いた。
「テレサさんに逢えた?」
ユキの瞳から涙が溢れて止まらない。
「島くんが冷たくなる代わりにテレサさんが温まるのね…テレサさん、
島くんを待ってたんですって…」
ユキの言葉に進が固まっていたが
「テレサさんがそう言ったのか?」(進)
「えぇ…今、そう言って私の意識から出て行ったわ。島くんもテレサさんも
今、やっと同じ世界で生きられる、って思っているのかもしれないわ。
古代くん、私達…」
ユキが涙を拭いて進を見た。
「島に負けてられないな…ユキ、大丈夫だよな?俺は行くぞ?」
ユキが頷く。進もユキの顔を見てにっこり笑うと“後、頼む”と言って第一艦橋に戻って行った。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)1 作家名:kei