島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)2
ユキは我慢できず涙が溢れてきた。
(沖田艦長…せっかく再会できたのに…これから古代くんの支えになって
ほしいのに…古代くんにとって大切な人が…なぜ?)
静かな廊下に進の声が響く
「俺は泣かないよ…あの人を見送るまでは…」
震えるその声にユキは叱咤された気がして涙を拭くと進のすぐ後ろを歩き出した。
……時間がない……
限られた時間で波動砲を内部爆破に向けて切り替えて自分たちもヤマトを離れなくてはいけない…冬月も現在の位置から離れなくてはいけない…
二人が機関室に入るとヤマトの心臓…波動エンジンを腕組みをして見上げている真田が待っていた。
「古代…俺にも手伝わさせてくれ。」
波動エンジンはサーシァが持っていた通信カプセルに入っていた設計図を基に真田が造りだした物だ。それに幾度も手を加え今に至っている…そしてこのエンジンは今、軍の戦艦に限らず民間の宇宙船のエンジンの基となっている…。自ら造り出した波動エンジンを爆破しなくてはならない…辛いが人が行うのを見てるくらいなら自分の手で…と思い真田は機関室で待っていた。
ユキがマニュアルを持ち、進と真田が淡々と作業をこなしていく…
「最終作業に入る。」(真田)
ふたりは視線を合わせ頷くと進がレバーを引いた……
沖田は艦低から響くような音を感じた後、少しの衝動を感じた。
(終わったか…)
そう、思いながらそっと進のシートに触れる。
「最初に会った時…守の事でワシをすごい眼で見ていたのを思い出すよ。
お前も大きくなった…立派になった。自信を持て…ワシがいなくても
今まで充分やってきたじゃないか。お前はユキだけを見ろ…お前の幸せは
ユキが運んで来てくれる。ワシは家族の元へ帰る…やっと息子に会える。」
沖田は静かに艦長席に座った。そしてサブエンジンを始動させると自動操縦で太田が再計測した地球とアクエリアスの中間点に向かった。ポイントはほぼずれておらず少し移動するぐらいだ。
沖田の心は穏やかだった。
「ユキ…あの時、諦めないでよかったな。あのまま眠り続けていたら古代の
心は死んでいただろう。ユキは自分で自分の道を切り開いた…。ヤマトよ…
長い間、ご苦労だったな…。お前を坊ヶ崎のドッグで休ませてやりたいが
そうもいかなくなってしまった。」
沖田は静かに眼を閉じた。
「ヤマトよ……戦いで散って逝った戦士たちの所へ行こう…」
アクエリアス到着まであとわずか、と言うところで加藤四郎が艦長席に座っている沖田を発見し冬月に強制通信を送った。しかし冬月の展望室を見ると進とユキ、真田と佐渡が敬礼しているのが見えた。加藤は今度ヤマトに強制通信を送った。
「沖田艦長!すみませんでした。私は…私はヤマトのクルーとしてあなたの
下で戦う事が出来た事を誇りに今後も地球の為に働きます!沖田艦長…
兄に…兄に会う事が出来たら………四郎は兄を越えるために飛んでいる、と
伝えてください!沖田艦長!!」
悲鳴に近い加藤の声が第一艦橋にこだまする。沖田は第一艦橋付近を飛ぶ加藤機に向かい敬礼をした。加藤は涙で敬礼がぼやける…
「「沖田艦長!」」
同じようにコスモタイガーの隊員が沖田に向かい通信を送る…が、やがてそれもアクエリアスのノイズで聞こえなくなった。コスモタイガーもこれ以上ヤマトのそばにいるとキケンと思い冬月のそばへ飛んできた。
誰もが敬礼でヤマトを見つめている…少し離れた所にデスラー艦も見える…。
アクエリアスが地球のそばを通過し水柱が延びてヤマトに到着したその瞬間…水柱がはじき飛んだ。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)2 作家名:kei