島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)3
「兄ちゃん、サッカーへたくそだったんだよ。お母さんは兄ちゃんの事
運動神経もよかった、って言ってたけど“うそだぁ”って思ってた。」
ユキは島が気を利かせて下手に見えるよう演技してたんだろうと思った。
「そう?…でも島くん瞬発力すごかったわよ?」
ユキは島の威厳を保たさなくてはと思って弁護した。
「そうなの?」(次郎)
「えぇ。ただサッカーは次郎くんがうますぎるのかもしれないわ。だから
負けちゃってたのかも?」(ユキ)
「そうなのかなぁ?」
次郎は少し笑顔になった…が、
「でももう、サッカーしてもらえないんだよね。」
次郎の視線が二度と開く事のない島の顔に移る。
「水が引いたら全部元通りで…またサッカーやろう、って言ってたのに…
兄ちゃんのうそつき!」
次郎はそう言って棺を叩こうとした。
「次郎くん…私の話を聞いてくれる?」
ユキがそう言って次郎の拳を止めた。
「ちょっと次郎くんにはまだ難しいかもしれないけど…私達、一緒にヤマトに
乗って…家族みたいにいつも一緒だった…だから次郎くんも家族みたいに
思ってる。次郎くんが島くんの事うそつき、って言うと私も辛いわ。
それにね、島くんと話してるといつも次郎くんの話が出てきたわ。やっぱり
サッカーが大好きで、って。島くんは必死に地球を守るために命を落として
しまったの…結果として…帰ってくる、って約束は守れなかったけど…
そんな風に思わないでほしいの。」
ユキは涙をこらえてにっこり笑った。
「今こうして地球で暮らす事が出来るのは島くんのおかげ…水が引いたら
サッカーだって出来る。そのサッカーが出来るのは島くんのおかげ。
忘れないで…次郎くんのお兄ちゃんはすごい事をしたの。」
ユキの瞳から涙がこぼれた。
「でもね…私も思う…死んじゃったらダメ、って。」
次郎はユキの涙に驚いた。
(こんなきれいな人が兄ちゃんの為に泣いてる…)
やがて島の棺の回りにクルーがひとりふたりと集まって来た。そしてあの時はこうだった、ああだったと暴露話が始まった。訓練時代、進と島はワンセットでいろいろやらかしていたが終わった事は忘れてしまうのか進の脳裏にほとんど残っていない話だった…が、記憶に残すのが得意な相原、南部と太田が合流してからはふたりがよく覚えていた。
そこへ玄関のインターフォンが鳴った。一瞬静まりかえると母が荷物を持ってみんなの所へ来た。島の母が手に持っていたのは島のナップザックだった。
「軍の方が届けて下さったの。開けて見ましょう。」
母がザックの紐を解く。真っ先に出てきたのは次郎の写真だった。
ヤマトがトリチウムを積みこむ時、手の空いているクルーは各自、荷物の整理をするよう通達が出ていた。今回は短期決戦だったのでみな、荷物は少なかった。
進は自分の部屋の整理が終わると隣の島の部屋に向かった。
「やっぱりキレイだな。」
島の部屋は訓練生の時からたまり場になっていたのでいつもきれいに整頓されていた。
「次郎くんの写真…いつも飾ってるんだよな。少し大きくなったな。」
進の知っている次郎は白色彗星帝国との戦いの後、島が病院にいる時が最後だ。進はそっとその次郎の写真を手に取ると机の上に置いた。そして一番上の引き出しを引くとレポート用紙の様なものが入っていた。
「紙…?」
普段島は紙をほとんど使わない。不思議に思って手に取り一枚めくると次郎宛ての手紙があった。進はそれを読んで今までと違う島の一面を見た気がした。
(島はいつもこうして弟に手紙を書いていたのだろうか?)
いつも島の顔は自信に満ちていた。進も隣に島がいれば安心できた。
(…島…お前は俺にとって絶対にいてもらわないといけない存在だったのに…
どうして…死んじまったら全て終わっちまうじゃないか!)
進はウルクの崩壊から不死鳥のように飛び立つヤマトの姿を思い出した……と、その時島の部屋の扉が開いた。
「やっぱり先客がいた…。進んでる?」
鼻声の相原だった。
「島くんの荷物の整理、誰もしないんだったら僕やろうかな、って思ったら…
やっぱり古代くん、いた。」
相原は進が机の所にいたのでクローゼットに向かった。
「ほとんど私物なんてなさそうだけど…」
そう言ってきちんと整理されている靴下などを出し始めた。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)3 作家名:kei