島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)3
二人は黙々と作業をすすめた。クローゼットに入っていた衣類をナップザックの下の方に入れ机の中から出てきた物を後から詰めた。
「次郎くんの写真…。島くんが入院してる時に会ったのが最後ですね。子供
って一年すごい大きくなってるから…結構大きくなったでしょうね。」(相原)
「そうだな…」
進の脳裏に島の家に遊びに行っていた頃の幼い次郎の顔が浮かぶ。最初の頃、兄ちゃん、兄ちゃんと言いたいのだろうけどまだ上手に言えなくてにぃたん、と言ってた事…慣れてくると離れなくてまるで自分に弟が出来たようなそんな錯覚を覚えた事…
進がぼんやりしていると相原が心配そうに声を掛けた。
「大丈夫?古代くん?」
進は名前を呼ばれてハッとした。
「あ、あぁ…大丈夫だ。あいつさぁ…優等生ぽい、って感じで…俺の第一印象
なんだけど…。校長室で待ってる時、島が迎えに来てくれたんだよ。
それから橋本先生と教室へ行って…みんな静かに勉強してて…すごい集中力
ってのが教室に入った瞬間にわかった。訓練予備生として転入できて本当に
よかった、って思う。こんな辛い別れを何度もしたけど…だけどやっぱり
相原や…島、山本と加藤と出逢えて本当によかったって思う。相原…お前は
お前だけは死ぬなよな…。」
進はそう言って相原の手を握って泣いた。
「これで全部。」
島のナップザックから軍の端末と通信機、プライベート用の端末、携帯が出てきた。
「軍のはこっち……こちらは島のプライベート用なのでご家族に…」
ナップに入っていた物は少なく数点の衣類と次郎の写真、端末類…そしてレポート用紙だった。島の母が出した物を進が仕分けをして私物と軍から貸与されたものと分けた。
「これ…」
父がレポート用紙を手に取って中を見た。
次郎
弟よ…あるいはあの日の練習が最後の思い出になるかもしれない…。
お前がこの手紙を受け取る可能性もゼロに等しい…
次郎…もしこの手紙が届いた時俺はこの世に存在していないだろう。
お前ももう、俺が家を出た時の年齢に近付いた。出来るだけ早く自分の
進む道を見つけるんだ。
今なら選択肢はたくさんある。
地球が無事なら…お前は自由になれ。
だけどお父さんとお母さんを頼むな。兄ちゃんは頼りなくて本当にすまん。
こんな兄ちゃんだったけど忘れないでくれな。 兄 大介
父は涙を流しながらその手紙を見た。そして一枚めくると両親宛てに書いてあった
父さん、母さんへ
先立つ不孝をお許しください。
ヤマトは戦艦だから万一の事があって当たり前…だけど今回は今までの
航海と違い絶対に帰れるイメージが湧きません。一度負けている相手だから
なのか…よくわかりません。
私は12で家を出ました。家を出ると言う事は私にとって辛い事でしたが
偶然にもいい仲間に巡り合えて幸せでした。
父さん、母さん私に何があっても古代を責めないでください。
古代がいたから…私もここまで頑張る事が出来ました。
次郎が古代を責めないようちゃんと言って聞かせてください。
次郎も賢い子だと思うから私の職業を理解してると思うのでわかってくれる
と思います。
私は父さんと母さんの子に生まれてきて本当によかった。二人の子として
生まれてきたから私の人生は充実していました。
多分、女性の一人も連れてこないで、って言いそうですが私には一生を
誓った女性がいます。残念ながらこの世に存在しない人なので今頃私は
その女性と一緒にいるでしょう。だから私が死んだ事を悲しまないで下さい。
私はやっと一生を誓った女性と逢えるのですから…。だからと言って私が
死に場所を求めているわけではありません。私の中に彼女が生きているので
死にたいわけでは絶対にない…それだけは勘違いしないでくださいね。
いつまでも二人仲良く… 大介
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)3 作家名:kei