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島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)4

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  「「ただいま。」」

ふたりは地下都市の三浦の実家に戻って来た。

  「ちょっと…飲みすぎたかな。」

ソファーにどっかり座った進にユキがイオン飲料のキャップを緩めながら渡す。

  「ありがとう。」

進はそれを受け取ると半分ほど飲むとユキに渡した。

  「今日も?」(進)
  「もちろん。手を出して?」

ユキは受け取ったイオン飲料をテーブルに置くと引き出しに入っているキッドを取り出して自分の手と進の指を消毒した。

  「ちょっとチクっとするわよ。」

進の指先の血をキッドに付けた。

  「先にシャワー浴びてくる。」

進はそう言うと奥の部屋に着替えを取りに行った。








  「うん、平常値。」

ユキが白血球の数値を確認して点滴の用意をした。

  「明日、何ともなければ一日おき。古代くん、頑張ったわね。」

進の残したイオン飲料をユキが飲んだ。

  「お待たせ。」

宇宙戦士のシャワーは早い。

  「ベッドとソファーと…どっちがいい?」(ユキ)
  「ソファーで…かな。ユキ、ちょっと話があるんだけど。」

進がソファーに座って左手を出した。ユキは新しい消毒綿を取り出して血管辺りを拭いてゴムでしばった。

  「ん?なぁに?」

ユキの白くて細長い指が進の血管を探す。毎日の事なのに進はこの瞬間がゾクゾクした。

  「チクッとするわよ…はい、OK。」

あらかじめ用意しておいたテープを針の上に貼った。

  「さっき、南部に話した。」

ユキは式の事だと思った。

  「勝手に話しちゃったけど…いいよね?」(進)
  「南部くん、嫌そうな顔してなかった?」(ユキ)
  「いや…反対に“勝手によそでやったら縁を切る”って言われた。」

進がバツ悪そうに言うと

  「そう…前科があるから絶対キャンセルできませんよ?大丈夫ですか?
   戦闘班長?」

ユキが進の横に座って笑っている。

  (この笑顔に何度救われてきたんだろう…)

進はユキのきゃしゃな手をそっと握った。

  「戦闘班長は卒業だ。」(進)
  「そうね。」

またユキが笑う。

  「式を英雄の丘で挙げられるか…って話をしてたんだ。沖田艦長と加藤、
   山本…ユキを見せたくて…式には島の家族と山本の家族を呼ぼうと思う。」

ユキは山本の遺体を引き渡した時、山本の両親が式に参列したいと言っていたのを思い出した。

  「古代くん、忘れてなかったのね。」(ユキ)
  「迷惑かなぁ、って思ったんだけど…お時間があるならきてください、って
   連絡すればいいかな、って思ってさ。」(進)
  「そしたら…加藤くんの家族にもお知らせしたら?お時間あるならどうぞ、
   じゃなくていついつ、結婚します。みたいな感じで…」

ユキが提案する。

  「お兄さん、軍に残っているでしょう?四郎くんもいるし…情報は入ると
   思うの。そこで山本くんの家族だけ声を掛ける、って後から聞いたら嫌
   かなぁ、って思って。」

ユキの言っている事はもっともだった。

  「そうだな、じゃぁ四郎に頼むか。」(進)
  「そうね、それが一番自然かしら。」(ユキ)

ユキが大きく伸びをした。

  「今日は不思議な日だわ。悲しい日、なのに私達は未来の話をしてる…
   悲しい日なのに嬉しい日なんて…変よね?」

ユキが胸元のネックレスを触りながら言った。

  「島くん…あんなに小さくなっちゃって…人間って小さいんだ、て思った。
   あんなに小さくなって土に帰るのね、って…。」

ユキは父親が大切そうに抱く島を思い出していた。

  「時代が違ければ…俺たちは何をしてたなろうな…」

進は落ちてくる点滴を眺めながらつぶやいた。

  「ユキはきっと医者になってるだろう?俺は…きっと三浦から出られない
   田舎者で終わってたかもしれないな。」

進が笑う。

  「だけどきっと私達…出逢えているはず…私と古代くんだけじゃなくて
   島くんも、真田さんも…相原くんもみんな絶対私の人生に関わってくれ
   てると思う。」

ユキはそう言って立ち上がると“シャワー浴びてくるわ”と言って奥の部屋に入って行った。
<地上へ>
それから一週間が過ぎ、地上の余計な水が引いたので軍関係者、公務員を先に地上に戻れるようになった。真っ先に軍関係者が地上に出た。

  「やっと出られたか。」(真田)

一般人を先に戻すと治安上良くない事があるかもしれないので先に公人を戻すよう指導が出たのだ。地上の様子は衛星で知っていたが砂漠地帯が全て湿地帯のようになりガミラス以前より緑豊かな星になるかもしれない、と研究結果が出てきた。

  「アクエリアスのおかげね…試練を乗り越えた者にしか与えられない幸福を
   置いて行ってくれたのね。」

ユキが地上の風に当たりながら言った。

  「代償が…大きすぎたわ。」

ユキの大きな瞳から涙がポロポロ落ちる。防衛軍の要人が先に地上に向かい続々と公人が地上に戻って来た。




  「何もない…」

ヤマトのメインクルーは揃って地球防衛軍本部に向かった。まだエアカーも走っていないので徒歩で向かった。防衛軍本部の中まで水が入りすぐに働ける状態ではなかった。どれぐらい水が地球に届くか予想が出来なかったので3階までの設備は全て4階以上上にあげられていたので被害は全くなかった。

  「ユキ…」

クルーの後ろから声を掛けられた。声の主は藤堂だった。全員で敬礼すると藤堂も敬礼で返した。

  「急いで…荷物を上にあげたんだ。3階までは水が来て…ギリギリで何も
   被害はなかった。多分、エレベーターも止まっているだろう。階段で
   上がるか。」(藤堂)

クルーは非常階段で上に向かった。






  「水は引いたけど…海が近くなった感じね。」

長官室から見える海が近くにあった。

  「そうだな…」

藤堂もクルーも窓辺に立ち朝日に輝く海を見ていた。

  「そう言えば…相原から晶子経由で聞いたが…古代、私の所への連絡が
   まだなのだが?」

藤堂が二人の式の事で遠まわしに聞いて来た。進とユキが顔を合わせるとそこへ南部が割り込んできた。

  「すみません、長官。実は実行委員、私と相原なんです。」(南部)
  「…そうか、だから…わかった。連絡を待つよ。南部、ちゃんと私にも
   連絡を頼むな。なんせ、秘書が結婚となるとその間、伊藤のスケジュール
   空けさせないといけないからな。」

藤堂が笑顔で伝えると南部は敬礼しながら

  「了解してございます!」

と返事をした。

  「このまま…平和になるといいな。」

藤堂のしみじみとした言い方にクルーは頷いた。





<地上へ>
  「「ただいま。」」

二人は久々に家族寮に戻って来た。進は銀河系の中心に向かった時以来だったので本当に久しぶりの帰宅だった。ユキは水道が出るか、を確認したり電気がちゃんとつくか全部屋チェックしていた。

  「大丈夫ね。」

進はする事がなくソファーに座っていた。この部屋は18階。さすがに何も被害はなかった。