島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)4
「確かに…最初は驚きましたし反対しました。条件が条件だったので
生きるための引換券、みたいで…だけどあの子は一年帰ってきませんで
した。同じクラスの子といる方が楽しかったみたいで…とても複雑な
心境でした。だけど一年して帰って来た大介はとても充実した生活を
送っていたのでしょう…笑顔で帰って来てくれました。その時一緒に連れて
来た子が古代くんだったんです。」
母の言葉に藤堂が驚いていると
「古代くんも最初は緊張してたみたいでしたが来るたびにいい顔になって…
大介と兄弟みたいで…大介一人で帰ってくるとなんだか変な感じでした。」
母は棺を見ながら話す。
「あんなにいい仲間に囲まれて…本当に幸せな子だと思います。テレサさんの
事も聞きました。あの子が向こうで幸せなら…それでいい、と思うように
なりました。私達には次郎がいますし…長男は婿養子に出した、とそう
思う事にしたんです。」
母が父の顔を見てにっこり笑った。
「後は…古代くんが結婚してくれたら…全て落ち着くような気がしますわ。」
母がそう言って笑った瞬間インターフォンの音がした。
「大介…お迎えが来たわ。」
母の一言でクルーが静かになった。
「みなさまも…準備、いいかしら…。」
クルーは脱いだ上着を着て立ち上がった。そして島の棺を持ち上げて表に止まっている黒塗りのエアカーに乗せた。
黒塗りのエアカーは先頭を走りその後ろに家族を乗せたエアカーが続き、その後ろにクルーらを乗せたマイクロが走る。
30分ほど走りトウキョウシティの外れの火葬場で3台のエアカーは止まった。
島の棺には防衛軍のエンブレムが入った旗が掛けられていた。どこからか聞きつけたのか数名の記者がその棺が黒塗りのエアカーから下されるところを取材していた。
「せぇの」
真田の掛け声で島の棺が下されすぐ横に用意されていた棺を運ぶ台に乗せた。
ゆっくりゆっくり島の棺が火葬場の入り口に近付く。ユキは我慢できず涙が溢れ歩みが止まった。次郎がユキの元に近付いて手を引っ張る。
「次郎くん…ありがとう。」(ユキ)
次郎はゆっくりユキと歩いた。
「最期のお別れです。」
火葬する前に静かに旗が下され棺のフタを外した。
「島くん…コサージュよ。」
ユキが涙を流しながら左胸にコサージュを付ける。そして島の母が紙袋からブーケを取り出した。
「これ…テレサさんへ私からのプレゼント…花嫁にはやっぱりブーケ必要でしょ?
大介の事だからちゃんと用意してると思うけど…大切なお嫁さんになにも
しないわけに行かないから…テレサさん、気難しい息子ですけどどうぞ
よろしくね。愛想つかさないでくださいね。」
母も涙が流れている。
「兄ちゃん、幸せにね。」(次郎)
「大介…幸せにな。」(父)
「ヤマトを任せたよ…オヤジさんも一緒だろう?エンジンの調子いいだ
ろうな…」
山崎もそっと涙をぬぐう。
「島くん、加藤くんと山本くんと一緒かなぁ…テレサさんとばっかりいないで
ちゃんと話聞いてあげてね。」(相原)
「島、航海図ちゃんとあるか?もう、届けられないぞ…これが最期の航海図
になるから大切にとっていてね。」
太田は自分が手書きした銀河系の航海図を胸で交差してる手の下に置いた。
「島くん…加藤くんはお腹空いていないかな…山本くんは元気かな…
寂しいけど…僕、頑張るから見ててね。」(相原)
「島さん…父をお願いします。」(太助)
「島…よく頑張ったな。沖田とどんな話をするんだろうか…私の友だ…
くれぐれも…頼む。」(藤堂)
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)4 作家名:kei