島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)4
「これからどうします?」
南部がみんなに声を掛けた。藤堂だけは次の仕事があるから、とひとり軍に戻って行った。
「しんみりしちゃってますから…少し飲んで帰りましょうよ。」
太田が声を掛ける。
「あのぉ…」
太助が遠慮がちに声を掛けた。
「僕も行っていいんですかぁ?」(太助)
「え?お前、帰るつもり?」
南部の問いかけに何も言えずにいるとユキが助け舟を出した。
「もう、南部くん?太助くんは第一艦橋勤務じゃないからドキドキしてる
のよ…(太助の顔を見て)ね?(太助が頷く)…ほらね?よそから見たら
このメンツ、結構怖い、って評判なんだから。まぁ太助くんがイヤじゃ
なければその誤解を解いてもらうためにもぜひ一緒にどうぞって感じよ。」
ユキの100万の$笑顔が太助の胸を撃つ
「え…あの…すみません、ご一緒させてください。」
とても小さい声だったがそう返事をした。
「山崎さん、今日はご一緒できますか?」
ユキがいつものセリフが出る前に聞くと
「えぇ多分そうなると思ってましたから妻には遅くなる、って伝えておき
ました。」
山崎が笑顔で答える。
「真田さんは?」
ユキが少し遠慮がちに聞くと
「ん?大丈夫だ…よし、じゃぁ俺の行きつけの飲み屋に行くか。つまみが
うまいんだ、そこ。」
真田が一番元気のない進の背中を少し強くたたきながら先頭を歩き出した。
「献杯」
テーブルにつまみが並びビールを少し掲げた。
「人間って…儚いですね。」
太助が隣にいるユキに話しかけた。
「島さんの遺骨を見た時、オヤジの時の事を思い出しました。」
太助の父は白色彗星帝国との戦いのとき、機関室を守って戦死した。
「太助くんのお父さん、大好きだったわ…私、自分の家族と余り話した事が
ないから“普通のお父さん”ってこんな感じかなぁ、って思っていつも
話してたの。」
太助は家にいるとゴロゴロしてる父しか知らなかったので驚きながら聞いていた。
「もちろんオフの日は佐渡先生の部屋でお酒呑んでゴロゴロしてたわよ。
だけどいつ戦闘になるかわからない状態で…お酒飲んでもどこかピリピリ
していたわ。最期までヤマトの機関室を守って…守り抜いて…島くんと
話したのが最期の言葉になってしまった…。“エンジン、出力低下…
航行に異常なし”…って。苦しかったと思うわ。息も切れ切れで…
(ユキの瞳に涙が溜まる)ヤマトを下りる時…機関室のありさまを見て
声も出なかった…こんな状態でよく飛べたもんだ、って…普段から機関士の
誰もが持ち場をしっかり守って万一の時でもなんとかなるようにしていて
くれていたの。」
太助は一瞬ユキの涙にドキッとしたがすぐに父の事を思いだした。
「オヤジが帰って来た時の顔…いい顔してたんです。」
太助が思い出しながら話し始めた。
「最初…オヤジを見る前に死亡診断書がメールで来ていたんです。訓練生は
非常事態が解除された時、実家があるものは実家に帰されたんです。
僕も…実家に戻りました。そこへ死亡診断書が送られてきて…それを見た
時…どこもかしこも骨折だらけでどうやったらそうなるの?って感じで…。
でも…慰霊祭の後オヤジを見たら…すごくいい顔をしてたんです。今にも
“ただいま”っていいそうな…そんな感じでした。最期の最期まで命を懸
けたヤマトの心臓部と一緒にいられて満足だったのかもしれません。
島さんの顔を見て…満足そうだな、って思ったんです。一番好きな場所で
命を全う出来て…ひょっとしてオヤジも島さんも幸せなのかもしれない、
って思いました。母ちゃんには絶対言えませんけど…。」
太助は少し笑った。
「僕が乗り込んだ最初の航海の時…北野が第一艦橋に詰めていて…下りる時に
こう言ったんです。“第一艦橋のクルーの一体感はハンパじゃない。”って
あの呼吸があるからどんな相手にも勝てたんだ、って言ってました。
その中でも“島さんと古代さんは本当にヤマトの頭脳で北野と、島さん、
北野と古代さんじゃ絶対に勝てない…あの二人じゃないとヤマトは回らない
んだ”って言ってました。」
ユキは一番きつかっただろう北野がそんな感想を言っていた事に驚いた
「北野は…森さんはご存知かもしれませんがあの訓練航海が終われば幹部
候補生として現場は卒業だったんですが航海士として進路変更すると
言ってました。実際大型艦のパイロットとして飛んでますからすごいなぁって
思いました。」
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)4 作家名:kei