島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)6
「どうしてこのドレスにしたのか聞いてなかったよ。」
進が聞くと
「須藤さんのおすすめなの。ピンク大好きだけどもう年齢的に卒業かなぁ
って思ってたんだけど…大人っぽい色でしょう?絶対お似合いですよ、
って言われて…。」
ユキのほほが赤くなる。
「似合ってる…その色…イスカンダルからやってきて命を落としたサーシァさん
が着てたドレスの色と似てるんだ。だから前撮りで見た時サーシァさんが
生きてたらこんな感じだったのかな、って思っちゃった。」
進の言葉にユキは少し複雑な気持ちになった。
(前からサーシァさんが生きてたら…って思った事があったわ。)
進はユキをエスコートしながら言葉を紡ぐ
「きっと…王女だからおしとやかで…賢明な人だったんだろうな。」
ユキの歩調がゆっくりになる。
(やだ…私、ったら死んでしまった人に妬いてる?)
自分の視界がぼやけるのが分かった。
(引っ込んで…涙…)
緩んでしまった涙腺は固く締めらるはずもなくユキは立ち止まった瞬間、涙が床にポタポタと落ちた。と同時に進の手からユキの手が離れた。
「どうした?ユキ?…!」
進はユキの涙に驚いた。
「俺…ヤバイ事言った???」
ユキの涙におろおろする進。そこに島がいたらぶん殴られているだろう。
「ユキちゃぁん…ゴメン、俺変な事言った?」
ユキはおろおろする進を見ていられず後ろを向いた。進が慌ててポケットに入っているハンカチをユキに渡す。(ハンカチは係員が渡したモノ)
「なんでもない…私の心が狭いだけ。」
進はハッとした。進にとってイスカンダルのサーシァは生きていたら恋愛の対象になったかもしれないが発見した時はすでに死亡していたのでその対象と思った事はない。……が、ユキは自分がサーシァと似ていることを認識しているからこそ気になる事で、もしかしたら自分がサーシァに似ていなかったら進は自分を選ばなかったかもしれない…そう思っていたのだろうか、と気付いた…。
「ユキ、こっち向いて。」
進がユキの肩を掴んで進の方を向かせた。ユキは進の力に敵うはずもなく…だが、床から視線を外さない。
「ユキ…俺を信じてくれるか?」
進の言葉にユキはハッとした。
「俺にはユキしかいない。女性で信じられるのはユキだけなんだ。」
進がその広い胸にユキを抱く。
「過去は変えらえない…でも未来は変えられる。一緒に幸せになろうって
誓っただろう?信じる事が奇跡を起こした事あった。生きてる事…それが
全てだと思う。」
ユキは自分の心のモヤモヤしたモノが大嫌いだった。前にも一度同じ感情を抱いたことがある。
「でも人間だれだって不安になる。」
ユキの呼吸が一瞬止まった。
「不安になったらちゃんと言って。ユキに泣かれるの辛いんだよ。ここに
島がいたらなんて言われるか…」
進が先程頭に響いた島の声を思い出してため息をつく。
「40万光年も俺たちを裂く事は出来なかったんだ。前にも言ったね。
これからはユキだけを見てる…って。その気持ちはあの頃から変わって
いないよ。俺はユキしか見えない…。」
進はそっとユキの唇に自分の唇を重ねた。
「新郎新婦がお色直しをして戻ってきましたぁ~」
相原がマイクを片手に叫ぶと一つの扉の前にスポットライトが当たる。音楽が鳴り、扉が開かれると二人が入場してきた。会場はすでに出来上がった人もいてさらににぎやかになっている。
「いいドレスだな。」
真田が少し離れた所からつぶやく。
「そうですね。悠輝の見立てらしいです。」
隣にいた南部がカクテルを片手に話す。
「真田さん、本当にもう、飛ばないんですか?」(南部)
「あぁ…行っても月か火星か…戦艦には乗らん。」
真田の言葉に天文台のあったイカロスを思い出すからだろうか、と南部は思う。あの美しく賢かった進の姪…運命に翻弄されず自分の人生を全力で走りきった少女…
「残念だなぁでも地球にいると思うの誘いやすいですよ。」
南部はそう言って残ったカクテルを一気に飲んだ。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)6 作家名:kei