島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7
「広いお部屋ね。」
ユキが荷物を置いて窓を開けてバルコニーに出た。眼下に先ほどまでいた坊が岬が見えて青い海が見える。所々島も見えた。島にはまだ木は生えていないが緑色に見えるので草が生え始めているのが分かる。小さな事だが少しずつ地球が息をしている証拠だ。
「いい眺め…。」
しばらくすると仲居さんがノックして入ってきた。
「ようこそお越しくださいました。」
そう言ってお茶の支度を始めた。ユキは部屋に戻り窓を閉めた。
「ありがとうございます。」
ふたりは今時珍しい畳のある部屋に通された。30センチくらいの背もたれのついているイスに座りふたりは仲居さんの入れるお茶を眺めていた。
「こちらのお部屋はお隣に温泉が出るお風呂がございます。エレベーターで
1階に戻っていただくと大風呂がございます。大風呂は午前9時から
午前10時まではお掃除が入ります。今回3連泊と伺っておりますが?」(仲居)
「はい。」(ユキ)
「ではお出かけになられる時、ロビーで大体の外出時間をおっしゃって
ください。その間にお部屋とお風呂のお掃除入りますから。念のため
貴重品だけしっかり管理なさってください。それとお夕食は何時にご用意
いたしましょう?こちらのお部屋にご用意させていただきますが…」
ユキは進の顔を見た。
「7時頃でお願いできますか?」(進)
「かしこまりました。温泉は24時間出続けていますのでいつでも入れますよ。
アクエリアスのおかげで細々と出ていた温泉が以前のようにたっぷり出る
ようになりましたの。旅の疲れをお取りくださいませ。」
仲居はそう言いながらお茶菓子をお茶の横に並べお湯の入ったポットを置いて部屋を出て行った。
「お部屋に温泉が引いてあるなんてすごい!」
ユキがお茶に目もくれずもう一度窓を開けてバルコニーに出た。右を見ると普通のパーテンションで仕切られているのに左を見るとコンクリートの壁があった。ユキはもう一度部屋に入りバルコニーの左側の部屋を見に行った。
「古代くん、来て!」
進がお茶を一口飲んでユキの声のする方へ行くと脱衣場がありその扉が開いていた。
「へぇ…」
進も驚いた。そこには石が敷き詰められ中央に大きな岩に囲まれた湯船がありこんこんと温泉がわき出ていた。
「アクエリアスの恩恵を受けたのは海だけじゃないのね。」
ユキは感慨深くそうつぶやいた
ふたりはまず大風呂に入る事にした。まだ時間も早かった事から貸切の同然に進は男湯、ユキは女湯を満喫した。自宅の場合、進はシャワー派だけどユキは時々湯船につかる。
「気持ちいい…古代くん、普段シャワーだけど…温泉でもさっさと上がって
しまうかしら?」
独り言を言っていると隣から“お~い”と声が聞こえた。
「古代くん?」(ユキ)
「そう、そっち誰か入ってる?」(進)
「ううん、貸切だわ。泳げそう!」
温泉の壁一つ隔てて会話をする。
「湯船につかる、なんてほとんどないからわかんなかったけどすげぇ気持ち
いいんだな。」
パチャパチャと進が水面で遊ぶ音がする。
「でしょう?」
ユキが得意げに言う。
「ユキの風呂が長い理由がわかるような気がするよ。でもなんで温泉って
肌がすべすべするんだろうな。」(進)
「そこが水道水とちがうところじゃない?」
ユキもお肌がすべすべになっているのを実感する。
「地球ってすごい星だよな。」(進)
「なに?突然。」(ユキ)
「地下にしみ込んだ雨がお湯になるんだぞ?」(進)
ユキは思わず笑ってしまった。
「やだ、古代くん、何を言うかと思ったら!」
ユキがコロコロ笑う。
「それ真田さんに聞かせてあげたいわ。そしたらきっと端末にチップ挿して
解説始めてくれるはず。真田さんの事だから退屈させず面白く教えて
くれるわよ。」
ユキは真田にメールでココに来る経緯は伝えてある。
(真田さん、心配してるだろうな)
明るい声で返事したもののユキは少し暗い顔になる。
(古代くんの心の闇…私は助け出す事が出来るかしら…)
「じゃぁ帰ったら速攻真田さんに解説してもらおう。」(進)
「お土産買って帰らなくちゃね。」(ユキ)
と、そこでバシャン、と大きな音がした。
「ユキ、ダメだぁ~のぼせるから先に部屋に戻ってるね。」
やはり普段シャワーだからかカラカラと扉の開く音を残して進は大風呂を上がって行った。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7 作家名:kei