島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7
「真田さん…」(進)
ユキも携帯に聞き耳を立てる
<甘えてもいいんじゃないか?この好意はお前達ふたりの財産だと思うから
無下にする必要ないと思うが?>(真田)
「………」(進)
<ご祝儀を包んでくれた人のリスト、俺が作って転送するからもしそっちで
内祝い代わりにお土産になりそうなものがあれば買ってこい。なければ
こっちに戻って来てから選べばいいだろ。>
さすがは年長者。内祝いの事など誰も考えていない。
<まぁ後は任せて行ってこい。前回ユキは養生で海に入れなかったから今回は
たっぷり遊んで来い。>(真田)
「はい…ありがとうございます。」(進)
<ご祝儀は俺が預かっておくからな。>(真田)
「よろしくお願いします。」
進はそう言って携帯を切るとユキに返した。
「古代くん…」(ユキ)
「まぁ…そんな所だ。甘えてばかりで、って思うけど…」
進もバツ悪そうだ。そうこうしてる間に軍の家族寮に着いた。時間は午前5時。午後1時にはフライト…
「忙しくなるぞ…」
そう言ってふたりはタクシーを降りた。
「律儀ですねぇ。」(南部)
真田が南部に携帯を返す。
「でもこれだけ盛大にやってなにもなし、じゃ悪い、って誰もが思うだろう?」
真田が南部に理解しにくい一般論を言うと誰もが頷く。
「そう?お世話になったから恩返し、って思ってるのに…。」(南部)
誰よりも幸せになってほしい、と言う願いが込められている事を進たちは知らない。
「あふ…」
相原があくびをした。
「そろそろお開きかな。」(南部)
南部がフロアーを見るとまだ一部のクルーはテンションが高い。そこであくびで出た相原は涙を拭きながらマイクを持った。
「え~中途半端で申し訳ないですが主役が新婚旅行の準備に向けて自宅へ
戻りました。なのでここでお開きとします!」
フロアーの隅で雑魚寝してるクルーもなんだなんだ、と起きる。と、そこへ南部が相原に耳打ちして相原もうなずく。
「でもまだ食事や飲み物が余っているのでフロアーを半分にして続行します
ので残られる方はご自由に!と南部砲術長が申しております。」
フロアーで盛り上がっているクルーから拍手が上がった。
「「ただいま。」」
結局南部と真田に丸く納められた二人は納得いかない、と言う顔をしながら家族寮の部屋に戻って来た。窓の外には朝日が輝いている。二人はそのままバルコニーに出て朝日を見つめた。
「きれいね…」(ユキ)
オレンジ色の光は少しすると青白い美しい光の束になりまるで二人を祝福するような輝きを放った。
「また一日が始まるな。」(進)
進も眩しそうに太陽をみつめる。その先には海があり視線を少しずらすと影の薄い月とアクエリアスの水柱の残骸も見える。
「風が強い…中に入ろう。」
高層ビルの18階…海風も入り風が吹くとかなり強い。進はユキと一緒に部屋に戻った。
とりあえず進からシャワーを浴びて出発の準備をする。旅慣れているふたりの準備は早い。ただ仕事じゃないから忘れ物チェックは一度だけ。現地調達するものがほとんどだから準備もあっという間に終わった。身体は疲れているが目が冴えて眠る気にならない。ユキが紅茶を入れてソファーでくつろいでいる進に渡すと自分も進の横にちょこんと座った。
「ありがとう。」(進)
「お疲れさま…とても慌ただしい一日だったわ。」(ユキ)
「一日じゃないな、二日だな。でも今日はユキの方が疲れただろ。」
「そうかも、でも気持ちのいい疲れ方、かな。」(進)
ユキが笑顔で答える。
「え、っと…これからは“私の妻です”って紹介するのか。ちょっと気恥ず
かしいな。」
進が少し照れたような言い方をして笑った。ユキも今までの“婚約者”と言うフレーズから昇進したのが嬉しかった。
「うふふ…言われる方もなんだかくすぐったいわ。」
ユキも笑う。進はその笑顔を見てユキの肩をそっと抱いた。ふと目と目が合いどちらからともなく唇を寄せる。ほのかにアルコールの味がする。ユキの肩を抱いていた手は腰に、唇はほっそりとしたユキの首にキスを落す…ユキの滑らかな素肌が進の男としての本能を呼び覚ます。
「今日のユキ、キレイだったけどそのままのユキが一番きれいだよ。」
進はユキの中に溺れていった
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7 作家名:kei