島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7
「古代くん?」
進は病院のベッドの上で意識を取り戻した。ユキが心配そうに手を握っている。腕には点滴の針が刺さりラベルを見ようと思うが焦点が合わない。
「ここね、中央病院…島くんの部屋で倒れてたんですって。相原くんが偶然
通りかかって…島くんの部屋の扉があいてたから覗き込んだんですって。
そしたら古代くん倒れてるから救急車呼びます、って…。大騒ぎだったわ。
どう?気分は…」
ユキが優しく声を掛ける。進は慌てて窓の外を見る。
「大丈夫よ、もうディンギルも攻撃してこないわ。」
進はユキの言葉にホッとすると汗がどっとでてきた。ユキがハンカチで進の汗を拭いた。
「相原は?」(進)
「ちょうど仕事に行こうとした時だったから私と入れ替わりに仕事へ向かっ
たわ。とても心配してたわよ。」
ユキが点滴を見た。
「疲れがたまってたみたい…少し白血球の数が増えてるんですって。また
しばらく点滴しましょう、ってモリタ先生からの伝言。」
進がため息をつく。
「それ以外に何もなければ今日一日ゆっくりして明日、自宅へ戻って平気
らしいわ。」(ユキ)
「真っ暗闇が…」
進が小さな声でつぶやいた。
「真っ暗闇が?」(ユキ)
「足元に広がるんだ…そこは沼地で俺を引きずり込もうとするんだ。俺は必死に
もがいてそこから逃げ出そうとするんだけど今度は無数の手が伸びて俺を
掴んでその沼地に引きずり込ませるんだ…そしてたくさんの意識が俺を
責めるんだよ。」
進が震えながらユキに告白する。
「その夢は初めて?」
ユキが手を握る力を強めて静かに聞いた。
「いや…前にも見たような気がする…はっきり覚えてないけど一度や二度じゃ
ない感じ…」
進が眼を見開きユキの手を跳ね除け頭を抱えた。進は思い出した…遊星爆弾が落ちた後…よく見た夢だという事を…
ユキは進が夜うなされていた事を思い出していた。そして真田の言葉も…
(あの頃の夢を思い出したのね…なぜ今になって…)
ユキは点滴をして動かせない左腕にそっと触れた。
「少し休みましょう。有給はたっぷりあるしどうせ飛べる輸送船もないし
護衛艦もないわ。知らないところへふらっと行くのもいいじゃない?」
ユキの言葉に進はため息をつく
「ダメな男だよな…いつまでたっても自力で立ち上がれない…。」
進が自分を責めていた。
「ううん、古代くんは訓練学校に入った時からちゃんと自立してるわ。自分の
進むべき道を見つけて努力をしてきた…全然ダメなんかじゃない。そんな事
どこの誰が言ってるの?」
ユキはおどけたように言いながら進の胸をつついた。
「きっとここがそう言ってるのね。全くどうしようもない人ね。普通、頭と心
同じところにあるはずなのに古代くんは別の場所にあるんだもの。」
ユキはつついていた指で進の頭を抱えていた右手をそっと下させた。
「悩もう…一緒に悩んで解決しよう。一人で抱え込まないで…私は古代くんに
何度も助けてもらった。今度は私が古代くんを助ける番。」
進はユキの手を眺めた。そして何度この手に救われたのか考えた。幾度となく…命の危機もユキのおかげで乗り越えられた…
「ユキ…」(進)
「全部が全部分かり合えるとは思わない。だけど私に言う事で胸の奥につかえ
てたものが軽くなるかもしれないじゃない?辛い事は半分に、歓びは倍に
なると思う。」
ユキの瞳から涙が零れ落ちた。
「相原くん?」
進が眠ったのを見てユキが相原に連絡を取った。
<ユキさん、どう?大丈夫?>(相原)
「えぇ…落ち着いたわ。ありがとう…。」(ユキ)
<いつまで病院にいるんですか?>(相原)
「明日、退院するわ。原因はココロだから…」(ユキ)
<そうですか…>(相原)
「良くなったら、島くんのお部屋、片付けに行こうとすると思うの。その時は
一緒にお願いしてもいいかしら?」
男性寮に女性が入ることは出来ない。
<えぇもちろんですよ。任せてください。>(相原)
「長官にお願いしてもう少し有給を頂いたの。だから今すぐ、って訳じゃ
ないから…」(ユキ)
<了解です>
相原は心配そうながらも笑顔で画面から消えて行った。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7 作家名:kei