島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7
「すみません。」(ユキ)
「点滴もしばらくした方がいいと思うから検査のキッドと点滴を持たせるから
少し部屋で待ってて。看護士に持たせるから。」
モリタが席を立ったのでユキも立ち上がる。そして扉の所でモリタがユキに言った。
「進くんの事、頼むね。」
そう言ってモリタは詰所に戻って行った。
「古代くん、入るわよ。」
ユキが軽くノックをして進の部屋に入った。進はすでに着替えてユキを待っていた。
「ずいぶん準備の早いこと。モリタ先生から退院の許可もらったわ。でも…」
ちょうどそこでノックの音がした。ユキがどうぞ、と言うと看護士が入ってきた。
「ユキ…あ…失礼します。モリタ先生から点滴お持ちするように、と…」
入ってきた看護士はユキの元同僚。進の姿を見て真っ赤な顔をする。
「ありがとう。」
ユキがにっこり笑って受け取ると看護士は“お大事に”と言って部屋を出て行った。
「それ?」(進)
「しばらく点滴、ですって。検査キッドもあと10日分ぐらいしかなかったから
ひと月分もらったの。さて、帰りましょうか。」
ユキが荷物を持って立ち上がる。
「俺が持つよ。」
ユキの持った荷物を進が持った。
「あら、病人なのに大丈夫?」
ユキがクスっと笑って“じゃぁお願い”と言って手を放した。
「今のは?」(進)
「同僚。古代くんの顔見て驚いてたわね。」
二人とも有名人だから驚かれてもなんとも思わない。
「一度帰ってどこかメシ食いに行こう。」(進)
「どこへ?何を食べるの?」(ユキ)
「ずっと向うの食事だったからな…お米が食べたいな。」(進)
「そうね、朝もパンだったしね。」(ユキ)
他愛もない会話。ユキは少しでも進の心が軽くなることを祈っていた。
進がシャワー室に入ったのを確認するとユキは携帯を取り出した。
「相原くん?」(ユキ)
<あ、ユキさん。どうしました?>(相原)
「うん、古代くん、退院したからそれだけ伝えようと思って。」(ユキ)
<そうですか、わかりました。明日からどうします?>(相原)
「どこへ行く、ってわけじゃないけどフラフラしようと思ってるわ。」(ユキ)
<わかりました。何かあったら言ってくださいね。長官にも何かあったら
すぐに駆けつけてやってほしい、って言われてますから。>(相原)
ユキは誰もが暖かく見守ってくれることがうれしかった。
「ありがとう。その時はよろしくね。」
ユキはそういって笑って携帯を切った。そして南部の携帯に掛ける。
<ユキさん、古代大丈夫?>(南部)
「えぇ、もう、退院したの。で、南部くんにお願いがあって。」(ユキ)
<どうぞなんなりと!>(南部)
「気候が暖かくて食べ物がおいしくてゆっくりできるところ、っでいいところ
ないかしら?」(ユキ)
<…了解。お返事はメールで!>
南部はそう言うと携帯を切った。そして退院した事を真田にもメールで伝えた。
「ユキ…」
シャワーを浴びた進はソファーに座るユキを後ろから抱きしめた。
「古代くん…」
進の声と共に進の息が耳にかかる。ユキは一瞬にして力が抜ける。進もそれがわかってそっと耳を噛む。ユキの反応に進の手がユキの形のいいバストを這い首筋を舐めあげる。
「ダメよ…私もシャワー…」
ユキの願いむなしくそのまま後ろからひょい、と抱き上げられるとまだ何か言いそうな唇を進は自分の唇で塞ぎ抱き上げたままベッドルームへ…進はユキの全てを独占したかった。本当なら部屋から出さず自分一人のものにしておきたかった。どこに行っても誰もがユキを見て振り返る。自慢したい気持ちもあるがそれ以上にユキを独占したい気持ちが上回る。でもユキを閉じ込めておくことなんてできない…だったら二人でいるときは誰にも邪魔されずユキを感じていたい、とそう思っていた。
もちろんユキも進の気持ちが痛いほどよくわかっていた。有名人の進を誰もが振り返る。車の中で信号待ちしていても分かってしまうほどだ。それに気付いているのかいないのか進はいつも手を握ってくれる。自分のドロドロした気持ちが晴れていくのがわかる…。
ユキは進に抱かれながらこの進の手で自分の嫌いな自分が変わっていくような気がしていた。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)7 作家名:kei