【腐】 愚問 【亜種】
冷えていく周囲の空気も、地面の固さも、いずれ感じなくなる。間近に迫るその時を待ち構えていたら、誰かの手が触れた。
不審を感じる間もなく抱き起こされ、唇を塞がれる。目を開ければ、一目会いたいと願った顔が間近にあった。
「・・・・・・カイト?」
「遅くなってすまなかった。体は動くか?」
聞かれて、腕を動かしてみる。痛みもなく、いつも通りに動いた。
・・・・・・・・・・・・。
口を開きかけて、一旦閉じる。理由を追及しても、はぐらかされるだけだろう。何となく、そう思った。
「あー・・・・・・動く。ありがとう」
「大したことではない。間に合って良かった」
耳元で囁かれて、身を竦める。抱き寄せられるまま、カイトの胸にもたれかかった。
「もう会えないのかと思った」
「すまない。用事を片づけていた。これからは、お前の側にいよう」
「用事」という言葉に、アカイトのぼんやりとした意識が、徐々に鮮明になる。そう、自分にも大切な「用事」がある・・・・・・。
「ぎゃー! 離せ馬鹿!!」
アカイトは真っ赤になって暴れ、カイトを無理矢理引き剥がした。
「調子が戻ってなによりだ」
「うるせぇ!!」
立ち上がってあちこち手で払っていたら、カイトが端末を差し出す。
「その調子で、用事を済ませてこい」
表示されている時間は一万年。アカイトは端末とカイトの顔を三回見直した後、
「えっ、なんっ」
「約束だろう? これで、お前は私のものだ。主人に別れの挨拶をしておけ」
そう言って押しつけられた紙には、何処かの住所と部屋番号が書かれていた。
「・・・・・・お前、何者なんだ?」
「今、聞きたいか?」
首を傾げるカイトに、アカイトは端末と紙片をコートのポケットに押し込むと、
「後でゆっくり説明しろ」
そう言い残して、姿を消した。
紙に書かれている住所へ。彼が助けたいと願った少女のいる部屋へ。
作品名:【腐】 愚問 【亜種】 作家名:シャオ