【腐】 愚問 【亜種】
「戻ったか」
カイトの言葉に応えず、アカイトは無言で端末を押しつける。
「どうした?」
「返す」
カイトは何も言わずに端末を受け取った。表示されている時間は、渡した時から一秒も減っていない。
「残り時間は?」
「ある」
アカイトはカイトに背を向けると、そのまま姿を消した。
高層ビルの屋上、いつもの定位置よりもずっと前。
屋上の端、ぎりぎりのところに立って、アカイトは、ぼんやりと遙か彼方の高層建築を眺める。
腕に表示された時間は、そろそろ五分を切るだろう。
もう、どうでもいい。どうでも。
自分は、あの時処分されるべきだったのだ。正規品ではありえない色を持って生まれた時に。
俺は疫病神だ・・・・・・俺のせいで、マスター達を不幸にしてしまった。
俺のせいで。俺を拾ったせいで。
死が償いになるかは分からない。けれど、マスターがそれを望んだから。
せめて最後は、望まれた通りにしよう。
残り時間はもう僅かだろう。この高さから落ちれば、原型すら留めない。その時を待って目を閉じたアカイトの耳に、足音が聞こえた。
気づいたときには抱き締められ、唇を塞がれる。不機嫌な青い瞳から目を反らし、アカイトは腕でカイトの体を押し退けた。
「いらねーよ・・・・・・無駄な時間は持たない主義だ」
袖を捲って、残り時間を確認したアカイトは、いきなりカイトにつかみかかる。
「何だよこれ!? どういうことだ!!」
表示されている数字は、残り百年。
「それだけあれば」
「あれば何だよ!? 端末寄越せ!! 返すから!!」
「落ち着け。お前の主人を」
「何でだよ!! 何で!! 時間なんかあったって!!」
アカイトはカイトの襟元を掴み、真正面からその瞳を覗き込んだ。
「・・・・・・お前も、俺を捨てるのか?」
縋るように相手を見つめるアカイトの背中に腕が回され、そっと抱き寄せられる。
「捨てるものか。お前は私のものだ」
耳元で囁く声に、赤い瞳から涙がこぼれ落ちた。
「・・・・・・カイトの側にいたい」
祈りにも似た言葉を吐き出し、アカイトはカイトの肩に顔を埋める。
「・・・・・・カイトの側にいたい」
望みは、ただ、それだけ。
作品名:【腐】 愚問 【亜種】 作家名:シャオ