【腐】 愚問 【亜種】
翌日。
アカイトは新たな狩り場を目指して移動中、場違いな格好のヒト型を見かける。近くにマスターらしき姿はない。気づかれないようそろそろと近づき、物陰から品定めをした。
鮮やかな青い髪の男。身に纏った黒いコートは、一目で上質な物だと分かる。相手が白手袋をはめているのを見て、アカイトは溜め息をついた。
うぜー。あれじゃ、かすめ取るのは無理だな。
時間を奪うには、肌か髪に直接触れる必要がある。アカイトは袖をめくって、自分の残り時間を確認した。
残り五十分。時間を奪うのに必要なのは十五分。ショッピングモールまでは、駆け足で十二、三分というところだろうか。
・・・・・・一か八か。
もう一度周囲を伺い、マスターどころか人影のないのを見て取る。素早く背後から忍び寄り、相手の髪に触れようとした瞬間、アカイトは地面にひっくり返されていた。
ふぁっ!?
何が起きたのか理解する前に両手首を掴まれ、相手の男が馬乗りになってのぞき込んでくる。吸い込まれそうなほど鮮やかな、青い瞳。
「・・・・・・アカイト?」
突然名前を呼ばれ、ぎょっとして相手を見た。見知らぬ相手だが、正規品なら「KAITO」のはず。
「は!? お前なんか知らねーよ! つーか離せ! 何だよいきなり!!」
「お前が襲ってくるからだ」
「ちげーよ馬鹿! 道を聞こうとしただけだ! いいからどけ!」
白を切るアカイトだが、相手は捲りあがった袖口から覗く「時計」に目を遣り、
「残り一時間を切ってるな」
冷静な声で言った。
「分かってんならどけよ! 殺す気か!!」
「端末の時間は? 持っているのだろう?」
「なっ!? ・・・・・・うるせえな! お前には関係ねーよ!!」
何故知っているのかと、追求する余裕もない。じたばたと暴れるアカイトに、カイトは唇の端を持ち上げ、「望むだけの時間をやろうか?」と言った。
「は?」
「お前が、私の物になるなら」
「はっ!? なっ、いらねーよ! 無駄な時間は持たない主義だ!」
「それは残念だ」
ぐいっと腕を引かれ、無理矢理上半身を起こされる。抵抗する間もなく、いきなり唇を塞がれた。
ふぁ!?
同性にキスされたのだと理解した時には、カイトはとっくに立ち上がり、
「私の時間を無駄遣いするなよ」
そう言い残して、姿を消した。
「えっ、あっ」
アカイトが慌てて袖を捲ると、「時計」の表示に十年分追加されている。
なっ・・・・・・!
何度も見直した後、これが現実だと理解して、頭がくらくらした。
何だよ、あいつ・・・・・・! 何なんだよ!
一体、何処からこれだけの時間を捻出したのか、どうやって自分に移動させたのか、何より、何故自分に与えたのか。
『お前が、私の物になるなら』
な、なるかボケ!!!
ごしごしと袖口で口を拭いながら、端末を取り出す。
何であれ、十二年分貯まった。目標には、遙か遠いとしても。
作品名:【腐】 愚問 【亜種】 作家名:シャオ