【腐】 愚問 【亜種】
遙か遠くの高層ビルは、壁面に暮れゆく空を映し、目映いばかりに輝いていた。
あの何処かに、マスターがいる。父親を騙し、莫大な借金を負わせ、肩代わりするのと引き替えに娘を奪った「親友」と共に。
『君達の力になりたいんだ』
柔らかな物腰、穏やかな声。善人の仮面を被った、悪魔。
あの卑劣者からマスターを取り戻す為には、気の遠くなるような時間が必要だ。アカイトは懐から端末を取り出すと、表示された数字に苦笑を漏らす。
一万年集める前に、世界が滅亡するだろうな。
ふと、思考は昼間の出来事へと戻った。透き通るような青い瞳を思い出し、指先で唇に触れる。
『お前が、私の物になるなら』
もし、カイトの言う通りにしたら、本当に彼は
いやいやいやいやいや! ないないないないない!!
勢い良く頭を振って、その考えを追いやった。
一万年だぞ、一万年。あいつのマスターにどれだけ財力があろうと、そんなほいほい出せる訳がない。
それに・・・・・・
『ゴミはゴミ箱へ』
処分場へと引きずられるアカイトに、彼は笑いながら言った。騙されるほうが間抜けなのだと。
誰も信用しない。誰の力も借りない。
世界の全てが、敵なのだ。
・・・・・・くだらないこと考えるな。
アカイトは自分に言い聞かせながら、高層ビルに背を向けた。
作品名:【腐】 愚問 【亜種】 作家名:シャオ