二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐】 愚問 【亜種】

INDEX|8ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

ビルの屋上、いつもの定位置。
ぼんやりと視線を向けていたアカイトは、背後の足音に振り返った。

「・・・・・・しつけえな。ストーカーかよ」

カイトは彼方へ視線を向けると、

「お前のマスターがいるのは、あそこか」

と聞いてくる。

「元マスターだけどな。廃棄手続きは済んでる」
「そうか」

カイトの視線は一度アカイトへと戻り、再び高層ビル群へと向けられた。アカイトは落ち着きなく足を踏み変えてから、「でも、本人の意思じゃない」と続ける。

「委任状を偽装された。何もかも偽装だらけだ。あいつが、全部でっち上げたんだ」

吐き出すように、アカイトは続けた。

廃棄寸前で逃げ出したこと。マスターの父親に拾われ、娘の子守役として置いてもらえるようになったこと。父親は昼も夜も働きづめで、それでも大した稼ぎにならなかったこと。なけなしの金で命を繋ぎ、身を寄せあって暮らしていたこと。

「母親は?」
「いない。マスターを産んですぐ、病気で」
「そうか。悪かったな」
「何が?」
「立ち入りすぎた」

カイトが真面目に言っているのを見て、アカイトは「変な奴」と笑う。そして、はあっと息を吐いてから、視線を落とした。

「母親が生きていたら、違ったのかもな。もっと真っ当な家族でいられたのかも」
「そうかもな」
「まあ、俺は拾われなくて、のたれ死んでただろうけど」

自嘲気味に笑うアカイトの頬に、カイトの指が触れる。

「その時は、別の縁があっただろう」
「・・・・・・やめろよ、気色悪い」

アカイトは頭を振って、カイトの手を払った。
少しの沈黙。アカイトはぎこちなく口を開き、幼い主人の為に本を拾ってきたことを話す。

「最初は、ただの落書きだと思った。でも、ある時、急に読めるようになった。最初は簡単なこと・・・・・・体を浮かすとか、小さな火を起こすとか、そんなことやって。そのうち、相手の時間を奪う方法が分かった。最初は悪いと思ったけど、これで俺にかかる金が浮くならって、それで」

アカイトは、カイトが考えに耽っていることに気が付き、途中で口を閉じた。

「何だよ」
「いや・・・・・・此処に捨てられていることは知っていたが、お前が拾っていたとはな」
「あ?」
「大したことではない。お前は気にしなくていい」
「何だよ、気になるじゃねえか」
「今のお前には理解できない」
「はあ? 馬鹿にしてんのか!?」

いきり立つアカイトだが、ぐいっと頭を引き寄せられ、

「私のものになるなら、教えてやろう」

間近で囁かれ、一瞬で耳まで赤くなる。

「離せ馬鹿! ふざけんな!」

暴れるアカイトに、カイトは口元に笑みを浮かべながら離れた。

「くそっ、お前なんかに話すんじゃなかった!」

怒りながら立ち去ろうとするアカイトの背中に、カイトの声が掛かる。

「お前のマスターの話を、もっと聞きたい」
「ああ?」
「私には、マスターがいない」

突然の言葉に、アカイトは足を止めた。頭からつま先までカイトを眺め、

「何で? 捨てられたのか?」

自分とは違う、正規品なのに。上等な服装から、さぞ大切にされているのだろうと思ったのに。

「いや。最初からいない」

カイトはそう言って微笑み、「お前が羨ましいな」と続ける。

「私には、語る思い出すらない」

その笑顔が、マスターと重なった。

『ずっと一緒だよ』

そう言って笑ってくれた。その笑顔が支えだった。
何もかも失ったと思っていたのに。

「アカイト」

カイトが近づいてきても、アカイトはその場に留まる。

「私のものになれ」

間近で見る青の瞳は、吸い込まれそうなほどだった。

「・・・・・・一万年くれたらな」

アカイトはそう言って、きびすを返す。その場を離れても、カイトが追いかけてくる気配はなかった。

もし、母親が生きていたら。

『その時は、別の縁があっただろう』

カイトと、別な形で出会えただろうか。


作品名:【腐】 愚問 【亜種】 作家名:シャオ