島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)8
「失礼ながら佐渡さんからご主人の事もうかがっております。恐らく…
あなたが想像してるように男性として女性を妊娠させられる事が出来るかを
きちんと調べた方がよろしいかと…。」
ユキは奈落の底に落とされた気分だった。
(原因が自分だけじゃないかもしれない)
ほんの少し前まで全くそんなこと考えていなかった。
「やはり、ご相談しにくいですか?」
女医の言葉に静かに頷くユキ。
「私…中央病院から来ています。」
その言葉にユキは顔を上げた。
「モリタ先生にお願いしますか?」
女医の言葉に一瞬意味が分からなかったが
「月に一度、検診に来られるでしょう?その時に検査してもらいましょう。
結婚してちゃんと子供が出来るからだか心配だから調べましょう。って
医師が言えば断らないと思うわ。」
女医が静かに語りかける。
「でも…その検査をしてショックな結果だったら…」
ユキは動揺していた。おろおろして落ち着かない様子だ。
「あなたは子供が欲しくて結婚したんですか?」
そこで女医が尋ねた。ユキは身を一瞬引いた。
(私が結婚する理由?子供がほしいからじゃない…)
ユキは静かに首を振った。
「そうよね、賢明なあなたが子供が欲しいと言う理由だけで結婚するとは
思えないわ。」
女医もしっかりユキの履歴を調べて来ていた。
「大丈夫…今が底辺だと思うといいわ。後は浮上するだけ。言ったでしょう?
まるっきり自然な妊娠が0じゃない、って。男性だって子種が0って人は
ほとんどいないわ。」
女医は荷物をカバンにしまい始めた。
「モリタさんには私から伝えるわ。難しいかもしれないけどあなたは普通に
ご主人に接して。子供を産む事は女の義務じゃないわ。そしてそれだけが
幸せじゃない事を覚えていてね。」
そして最後に名刺を出して
「ごめんなさい、最初に出すべきなのにね。」
ユキは長い間女医と話していたのにきちんと顔を見ていなかった事に気付いた。赤い唇がとても象徴的で少し身体が大きく男性チックな女性だった。年齢はユキより少し上だろうか…。
「前崎 紫と申します。」
「前崎先生、でよろしいでしょうか?」(ユキ)
「みんなムラサキと書いてユカリと読むのが珍しいらしく患者さんも同僚も
ユカリ、で呼ばれてるのでよろしければそれに先生を付けてください。
でも誰もが“ユカリ”って感じじゃないよなぁって言うの。失礼しちゃう。
きっとしなやかなおとなしい女性を想像するのかしら?色でいけば落ち
着かない暴れそうな感じなのにね。」
ユキはふふふ、と笑った。
「やっと笑ってくれましたね。笑顔が治療に一番の薬です。一緒に頑張り
ましょう。古代ユキさん。」
紫はそう言うとユキに右手を出して“じゃぁ”と言って帰って行った。
紫はユキと話したその足でモリタのラボを訪れていた。
「おや、珍しい。紫先生。」
「やだ、伯父さん!…いや、あの、モリタ先生。」
紫はモリタの妹の子供だった。
「佐渡さんには会えたかい?」(モリタ)
「えぇ、面白い先生ね。ファンになりそうよ。」(紫)
「患者の心もしっかり捉える先生だ。いい先生だよ。」
モリタが紫を部屋に入れる。
「で、どうだったか?」(モリタ)
「余り…自然で、と言うのはかなり難しいかも。だけど若いから可能性は
あると思います。ご主人の検査をしてください。」(紫)
「そうだな…検査した方がいいな。わかった、来週進くんが来るからその時
うまく言って検査させるよ。」
その時のモリタの表情がまるで親の様だった。
「伯父さん、どうしたの?自分が親みたいな顔してるよ?」(紫)
「古代進は私が13の時からずっと見てる患者だからね…一番心配な患者だ。
いつも苦しんで苦しんで…追い詰められて…結果を出して。あんなに
若いのに、っていつも思っていた。やっと式を挙げられたのに…帰る場所を
見つけてこれから、なのに…。」(モリタ)
「ユキさんにはなぜ結婚したのか、を思い出してもらったわ。子供が全てじゃ
ない事も…伯父さんには辛い話になりそうだけど…。」
モリタの息子が亡くなった時…いとこ同士にあたる紫も年が近く家が近かったのでよく遊んだ記憶が残っている。
「古代夫婦は大丈夫よ。ユキさんの眼を見てすぐにわかった。この人が
あの古代進を支えてたんだ、って。そうね、女神のオーラが出てる感じ。」
紫はユキに会った感想をモリタに話した。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)8 作家名:kei